√03

リトライ

 ジリジリジリジリ――、と目覚まし時計の鳴る音。

 あと一分、五分、十分――……。俺の意識は目覚まし時計に抗いように沈んでいく。しかし、音は鳴り響く。ベッドから腕だけを這い出し、音のする方へ伸ばしていく。見つけた、と思った瞬間、音が止まった。

 これでまた、一休みすることができる。

「……むにゃむにゃ」

 ベッドの温かさ、柔らかさに身を委ねた。快眠の敵は許さない。これぞ、俺のモットーである。

「……って、おおぉいっ!」

「きゃあっ!?」

 俺は反射的に起き上がっていた。見覚えのある光景。反応。声。気配。頭を抱え、首を振った。――ああ、目にしたくない。これが現実だと思いたくない。

「ど、どうしたの、クロ――?」

 陽菜乃が俺の顔を覗き込んでくる。

 。夢なら醒めてくれ、と思いたい。いつの間にか、俺はこの世界を嫌い始めている。――クソゲーだ。クソゲー以外の何者でもない。

「あのさ」

「……うん?」

 それを言ってはいけないのだと知っている。知っているからこそ、口を閉ざしてしまった。

「……いや、なんでもない」

「? ……そう?」

 陽菜乃はまだ俺の顔を見ていた。おそらく、心配しているのだろう。以前もそうだった。その心配は嬉しい。心が安らぐ。だが、それは諸刃の剣なのだ。いつ、自分にも襲いかかるかわからない代物だ。

「顔、洗ってくる――……」

「う、うん……?」

 俺は自分から起き上がり洗面台へ向かっている。少しずつ、以前の展開と変わり始めている。それが何の効果を示すことになるのかは、まったくわからない。


  ♡


 ここまでの流れは通過している。

 これは、ほんのチュートリアルに過ぎない。鏡に映る自分の顔は引き攣っていた。引き攣るのもわかるさ。先ほどまで、俺の時間感覚で言えば、一日程度の間で体に覚え込まされてしまっている。――この『ヤンデレラ』は現実だ。要らないところも含めて、現実なのだ。

「……森山和奏の攻略、かぁ?」

『ヤンデレラ』の本質。

 それが転生という機会を与えられた俺の代償なのだろうか。〈俺〉は『ヤンデレラ』時代の森山和奏に惹かれている要素があった。これは、間違いない。

 しかし。いまは。

「顔洗うの、終わった?」

 ふいっと陽菜乃が顔を見せてきた。俺は笑みを作る。

「おう、終わってる」

「ふぅん。それじゃあ行く準備するよ」

「へいへい」

「へいは一回」

「へい」

 くすり、と陽菜乃は笑う。少しだけ安堵したように見えていた。

 その瞬間、インターホンが鳴った。この時刻に、だ。俺と陽菜乃は同時に目を合わせて、首をひねる。覚えがないからだ。

 さらに言えば、以前、前前回を繰り返す俺は、もっとわからない。不可解な展開である。が、予感のようなものもあった。ひどく、嫌な予感だ。

 そして、こういった予感は、たいてい当たる。

 俺は扉を開ける。

 そこに、彼女はいる。にこりと笑みを浮かべている。

「――クロネコくん、おはようっ」

 森山和奏が、そこにいる。


〈俺〉は『ヤンデレラ』時代の森山和奏に惹かれている要素があった。これは、間違いない。

 しかし。いまは。

 単純に、

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