お酒と二人

和扇

お酒と二人

「うぃぃ~」


「こら、突っ伏すな。摘まみと酒瓶だけで一杯なんだぞ、この机」


「お~、酒ぇ、と料理の救助、ごくろ~さまぁ」


「まったく、森の番人の威厳はどうした?どこに落っことしたんだ?」


「うにゅ~、うるしゃぁい!たまには良いじゃない、いい気分で酔っても~」


「…………コップ二杯でくたばるくせに」


「お酒に弱くても、いいのですっ!」


「はいはい、跳び上がって椅子の上に立つんじゃない。スッ転ぶぞ、頭打つぞ」


「大丈ぶッ…………くぅぅっ、お尻が…………ッ」


「あーあー。ツルっと滑って全体重ヒップドロップとか、カワイソーな椅子ちゃん」


「わ、私の方を……心配、して欲しい、んだけど~」


「自業自得のおバカに掛ける言葉はねーよ。長耳の端まで真っ赤にしてる酔っ払い女エルフ、探してもそうそう見つからねぇな」


「珍獣みたいに言うなぁっ!」


「頭を振るなっ、無駄に綺麗な金髪がうっとおしい!」


「無駄とはなんだっ、無駄とは!」


「暴れ馬の尾っぽに綺麗さは無駄だろが」


「だ、れ、が、暴れ馬だ!」


「ああ悪ィ。酒に溺れる大虎だったな」


「ンだと、ゴルアぁ!ぼさぼさ黒髪で無精髭の、むさっくるしい冒険者がぁっ!」


「それで反撃してるつもりか。つか、野郎は大体むさくるしいモンだろが」


「ぐっ、おにょれぇ……三十路の寂しんぼのクセにぃ」


「だーれが寂しんぼだ、独身をそんな風に表現するんじゃねぇ」


「甲斐性ナシ~、モテないランク一位~、万年独り身~、ケケケ」


「うわぁ、悪い笑顔ぉ。ダークエルフどころかゴブリンだ」


「誰がゴブリンかっ!神聖な森の番人たるエルフに、なんちゅう侮辱っ!」


「神聖な……?酒飲んでクダ巻いてる奴が?え、本気で言ってるのか…………?」


「ちょ、いきなり真顔で返さないで。急に恥ずかしくなるから」


「手で顔隠すなよ~、神聖なエルフ様のご尊顔を拝見させてくれよ~、くくく」


「やめろぉ!ニマニマしながら覗き込むなぁ!魔法くらわすぞ、このやろー」


「おっと、流石にお前の魔法は怖い」


「ふふーん、恐れるがいー、怖がるがうぃぃ、我が力を~」


「ま、飲酒して魔法ぶっぱなすと衛兵にしょっ引かれるけどな。おーい、衛兵さーん」


「ちょ、こらっ、止めろ!」


「痛ってぇ!脛すねを蹴るな!」


「へっ、通報なんてさせないぜっ!」


「暴行で通報してやっても良いんだぞ、この腐れエルフめ……」


「あ、うそうそ!ごめんなしゃーい」


「よーし、良いだろう。黙っててやる代わりに、秘蔵の高級酒を吐き出せ」


「んぐッ!?代償が大きすぎない!?」


「はっはっは、己の短慮を悔いるんだな」


「ぐぬー……というか、オマエも酔ってるな~~~?」


「多少は。だがまあ、口調や態度がまるで変わるお前よりはずっとマシだがな」


「ぬおーっ。お酒に強いでゃけで偉そうにぃ~っ」


「別に偉そうにはしてないだろうが、言い掛かりが過ぎる」


「へーん。そんな事で相手を負かそーとする時点でぇ、オマエは~、モテないっ!」


「他人の顔目掛けて指をさすな」


「痛ででででっ!人差し指がっ!折れる折れるっ、握るなぁ~っっ!」


「…………ごめんなさい、は?」


「うぐぐぐぐっ、意地でも言ってやぁるかぁ!オマエはモテないんだぁ!」


「ほう、まだ反りが足らないようだ」


「あがががっ!痛い痛いっ、真面目に折れるっ、ベキッて逝くっ」


「謝罪の言葉が無いなぁ?」


「くそーーーーっ、ごめんなさーーーーいっ!!!!!!」


「うるせぇ!」


「痛いっ!頭を叩くなっ!」


いだッ、顎に一発入れやがったな、この酔っ払いが……」


「うぃぃ、やるかぁ~?」


「おぉん?良い度胸だな」


「「……………………」」


「何してんだ、俺達は」


今日きょーはこの辺にしておいてやるぅ~、感謝しろぉ」


「へいへい、ありがとうござんした。やれやれ、飲み直しにするか……」


「ワイン、もういっぽーんっ!」


「あーあー、もう面倒くせぇ。酒だけ飲むな、水を飲め」


「え~~~、やだぁ」


「いいから言う通りにしろ。…………それとも無理やり飲まされたいか?」


「おみじゅ、いただきましゅっ!」


「はぁ。こんなんでも俺の三倍以上の歳とか、エルフはよく分からん」


「女の歳を口に出すなんてぇ、だからオマエはモテないんだぁ」


「コイツ、口にワイン瓶ねじ込んでやろうか…………」


「私の解毒薬なきゃ、いろーーーーんな人が困るんでゃぞぉ!毒は怖いんでゃっ!」


「まあ、それはそうだな。多様すぎるせいで、毒には回復魔法は効かないからなぁ」


「崇めよ、エルフの知識を!」


「おお、崇めようじゃないか。エルフの知識を」


「…………私はぁ?」


「酔っ払いを崇める理由が何処にある?」


「ぬがーっ!年下なのに生意気なっ!」


「長命種の年齢マウントはみじめだぞー」


「うるせーっ!目上を敬え~!」


「よし、敬おうじゃないか。おばあちゃん」


「…………」


「お、どうした?もう百も近いから疲れちまったか?」


「やめろぉ」


「なんだよ、お言葉通りに敬ってるじゃないか。人間でよわい百なんていないぜ?」


「私はまだ若い!人間換算なら十八歳くらいっ!」


「じゃあ目下だな、お嬢ちゃん」


「目上だけど年下なんだよ、この三十路やろーっ」


「横暴すぎる。街で評判の薬師エルフがこれとか、甚だしい詐欺だな……」


「むおーっ、こうなったらやけ酒だーっ!」


「あ、こら止めろ!飲み過ぎると酔いつぶれるどころか吐くだろ、お前!」


「がぼぼぼぼぼっ!お酒に溺れるぅ~、うぃぃ、ひっく…………うぷ」


「あ」


「おぶ」

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