こちらは作者様が自主企画用に書いた掌編のうち、ボツにした三つの作品のうちの一つだそうです。「愚作の供養」なんて書いてありますが、全然「愚作」じゃないです。それぞれすごいのですが、三つ読むと、この作者様の凄みが理解できる仕様となっております。ということで本来ここに書くのは変かもしれませんが、大目に見てもらって三作通してのレビューを書かせていただきます。
私見ではありますが、3つそれぞれテーマが違います。
1作目となるこの作品のテーマは表現です。ボツになった理由は「こんな物では私がネットイキりクソ陰キャである事が伝わらない」だそうです。それは確かに1ミリも伝わりません。ただただこの作者様が圧倒的な表現力を持っていることが伝わるだけです。
普通の短編であれば、1つ2つ入っていれば「おおっ!」となるような鋭い表現が、なんか数えきれないくらい入っています。私なら思いついた時点でうきうきでメモして大事にとっておきたくなるような素敵な文章が、打ち寄せる波のごとく何度も迫ってきます。作者的にはそれが「なんかくどい」と感じたそうです。こわい。なんかこわい。これだけ出しても枯渇しないその表現力……只者ではありません。お話自体もすごく素敵でおすすめです。私は二話目「二分二十秒程度の独白」が特に刺さりましたね。
次、二作目「私的選外~其の二」。テーマはキャラです。本物の命を吹き込まれたキャラは、姿かたちの描写がなくても読者の脳内で勝手に動き出します。作者様は、この読者に想像されるという能力が突出しているように思います。(ある方は「読者とキャッチボールができる」という表現をしていましたね。)本作の主人公は「拙者キャラ」です。定番でありながら、拙者力が低いと薄っぺらくなってしまうなかなかに手ごわいキャラです。ですが安心してください。一般人の拙者力が10とすれば、この作者様の拙者力は2億です。生き生きしすぎて腹筋崩壊します。しました。でも作者は言います「キャラクターへの感情移入が希薄だと存外書くのがしんどい」……希薄なんかいっ!
拙者、この作者のそういうところが只者ではないと思うでござるよ~(拙者力2)
最後、三作目「私的選外~其の三」。テーマは展開です。あるいは構成と言ってもいいかもしれません。「ネタが担保出来れば連載物にしようと思っていたヤツの一話目の試し書き」だそうで、とにかく続きを読みたくなる面白さです。この一話目でブラバするのは不可能と思えるほどに完璧な導入ではないでしょうか。キャラもめちゃくちゃいいですしね。細かいネタも大好きなんですが、一見ネタに見えて全部伏線になっていそうなところがまた巧いし、只者じゃないわけです。
はい、ということでご理解いただけましたでしょうか。
表現力があって、キャラがたっていて、展開が巧い。そんなの面白くないわけがないですよね。
知ってはいたのですが、今回さらに強く感じました……花恋亡さま、只者ではないです。
今さら聞けないのですが、なんとお読みするのでしょうか。
これからの作品も楽しみにしております!