私的選外〜其の一
花恋亡
二分四十秒程度の独白
とても短い話しを書いたんだ。
それは一昨日の会議の議事録程は文字数も無くて。
でも片手間に読むには途中でダルくなる様な、そんな短い話しをさ。
書いた後の二、三日は一人でも多くの人に目にして欲しくて、それは気になったよ。
でも、明日も仕事嫌だなとか昼飯は何食おうとか、洗濯洗剤と柔軟剤が切れそうだったからドラッグストアに寄らなきゃとか、朝食用に買っておいたキウイがそろそろ傷む頃かもしれない、そんな日常に直ぐに希釈されていったんだ。
車載のドリンクホルダーに置いたアイス珈琲が、信号の度にその味を変える様に。
時間の経った野菜炒めが、水っぽくなる様に。
気にしたり、考える時間は驚く程無くなったんだ。
でも暫く経ってちらほらと反応を貰える様になったんだ。
有り難いし嬉しい、でも何処か俯瞰してる自分が居るというか、不感症の自分がもう一人居るというか、ワイドショーを観ながらぶつくさ言ってる母親が視界の中に居る時の様に。
そこに在る、けれど、そこに居ない。
そんな空虚を持て余した。
中には泣けましたなんて言ってくれる人も居たんだ。
それでもやはり不感症な自分が、不誠実で薄情者で人でなしに思えて嫌になった。
でもふと思ったんだ。
それは泣かそうとなんて思って書いてないからじゃないかって。
泣いて欲しいとか感動して欲しいとか、そんな傲慢な動機で書いてなかったんだよ。
ただ伝えたかったのはさ。
無彩色に近い冬が、次第に彩りを取り戻す季節を迎える様に。
呼吸が重くなる程に白ばんだ朝が、途端に眩しくなる瞬間の様に。
スリープ前の一段階暗くなった画面に、指先一つ、優しく触れる様に。
誰かの心の彩度と明度へ触れたかったんだ。
ううん、そんな大層な物じゃない。
丹精込めて育てた野菜が、何処かの誰かの食卓で美味しいねって、そう言って貰える事を想像しながら袋詰めをする農家さんみたいに。
会計を済ませた帰り際に、有り難う美味しかったと、たった一声掛ける誰かみたいに。
そう声を掛けられたお店の人みたいに。
とても小さい靴が、可愛いらしく愛らしく思えた時みたいに。
心のワントーン上をなぞって。
話しの一番最後が、一番彩りを持つ様に書いたんだ。
日常に埋没して、書いた本人が忘れてたんだよ。
それを思い出させて貰って、想いが蘇って、僕の中のカラーは鮮やかになったんだ。
書いた張本人が一番影響されたって事だね。
馬鹿な話しだろ。
そんな、つまらない話しをしてごめんね。
おやすみ。
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