葵の上奇譚 現代編 中務教授の苦難? 2

※妄想大爆発してます。


 大学の近く、こんもりとした林の奥にある宿泊付きレストラン(オーベルジュ)『元祖フレンチ懐石』の引っ越した中務将仁は、離れに用意された一室で、静かにパソコンに向かい、様々なデータベースを整理していた。


 昼間は、ささやかな引っ越しの手伝いで、ゼミの学生やら葵が出入りしていたが、今はもう誰もいない。


 ふと書類作成の手を止めると、スマホに目をやり、今日、千歳が撮影して転送されてきた画像をスクロールする。今度のゼミの紹介写真にする候補だ。


「楽しさを全面に押し出しました!」

「…………」


 なぜ理系なのに自分の講座を受けていたのか、最後まで分からなかった彼で、まあ、単位を上げても良いかどうか、スレスレの状態ではあったが、いつも頼み事はきっちりとこなしたので、真面目は真面目なんだなと思いながら、ふと一枚の画像を目にとめて、隅の方を拡大し、左手で顔の下半分を覆ったまま、彼は瞼をとじ、しばらく固まっていた。


 そこには、あの例の箱をこっそりのぞき込んでいる葵の姿。


 愛おしく愛らしく麗しいこの人が、時を駆け去ってしまう事を知っている自分は、この人が幻のように去ってしまう恐れに負けそうになって、何度も本当の事を口走りかけるが、その刹那のきっかけがなければ、永遠に再び出会う事が出来ないのだ。


 何度も、幾度でも、あなたと出会えますように……。


『Love Letter』

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