ミラクル番外編、葵・テレジア奇譚 9
「男の姫君って……なんだそれは?」
「最近の若者言葉……らしいのですが、えっと、あの、子供の頃、丈夫に育ちますように……みたいに、後継ぎの男子も姫君の格好をしていたりしますよね?」
オイゲン公に、男の姫君という言葉の意味を聞かれた、リヒテンシュタインから帰ったばかりの従者は、困った顔をしてそう言った。
「うん? まあ、そうだな、それはよくある。ワシも子供のころの肖像画は、全部ドレス着てる……で、それがどうつながる?」
「えっと、ですから、言いにくいのですけれど、もともと、アダム富裕侯のところは、男子が何人かいらっしゃいましたし、親戚筋にも、男子はいらっしゃいます」
「それも知ってる。後継ぎは残念だったけど、うらやましいかぎり! で?」
従者は言いにくそうだったが、思い切って口を開いた。
「で、ですね……実は男の子のマリア・テレジア姫君が、あんまりかわいいので、もう後継ぎはふたりもいるし、姫君として育てていいかしら? なんて、侯の奥方が、おっしゃって、侯も、まあ後継ぎいるしいいよ! とか言ってしまい、いまさら実は姫君じゃなくて、男子だと言うに言えない……そんなうわさが……」
「それで、“男の姫君”……むっ!」
「で、でも、あんなにお小さくて、可愛らしい方なので、そこは眉唾かなぁ――っとは思います。はい!」
「し、しかし男の姫君……本当だったら、うちの後継ぎが……」
「本当だったら、ちょっと厳しいかな――っと、でも、まさかとは思います! デマだと思います!」
宗教的にも完全にアウトじゃないかなと、従者は思ったが、元神父であるにも関わらず、オイゲン公の苦悩は後継ぎのことであった。
『男の姫君でも――後継ぎさえ産んでくれるなら……いやしかし、いくらなんでも無理……』
「叔父上???」
「どうかなさいましたかオイゲン公?」
葵・テレジアは、ザヴォイエン・将仁とオペラにゆくため、馬車に乗ろうとする自分を凝視しているオイゲン公に、首をかしげていた。
「若い者は、若い者同士!! ねっ!」
「…………」
父親の行動も考えてみれば、なんだかあやしい……。
オイゲン公の疑惑は深まるばかりであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます