☕三人のメイド

※ヴィクトリア時代と現代を繋ぐ、なんとホームズが現代に出入りしている喫茶店の小話です。葵ちゃん、花音ちゃん、マリアちゃんは、同じ大学の学生で、マリアちゃんのママは趣味で、でっかいお屋敷で会員制の喫茶店をやってます。葵ちゃんたちは転生前です。

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・葵ちゃん(花音ちゃん・順レギュラー?)主役のお話⇩

源氏物語・葵の上奇譚/源氏物語への平安転生小説です

(※途中からホラー&グロイ注意? でもハピーエンドです)

https://kakuyomu.jp/works/16816452220109087230

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・マリアちゃん主役のお話⇩(モネにしては短い方なのでよろしけれ是非!)

☕グラナダ・シャーロック・ホームズの恋と不可思議な冒険の物語(段々怖くなるお話です。グロ注意? でもハピーエンドです)

 https://kakuyomu.jp/works/16816927861292293413


***


「うわー、おしゃれな喫茶店……」

「なんかこう、マリアちゃんにぴったり!」

「そう?」


 そんな風に言いながら、貸してもらった正統派ヴィクトリアなロングスカートのメイド服を着て、彼女のうしろをきょろきょろしながら、誰もいない早朝の『英仏屋』に入ってきたのは、臨時のバイトにやとった大学の友人ふたりである。


 今日は、やはり母が趣味でやっている『女子寮』に新しい子やってくるので、歓迎会の準備で忙しいからと、マリアは、こちらに駆り出されていたのだ。


 休めばいいのに。


 マリアはそう思いながら、同じメイド服姿の友人、あおいちゃんと、花音かのんちゃんに、だいたいの説明をしてから、「紹介制な上に予約制ので、そんなに客はこない」そう言って掃除を頼んでからスコーンを焼いていると、スマホが鳴って、単位の件でと大学に呼び出されたので、大慌てでに着替えて、「今日は予約は入っていないけれど、カウンターにあるノートのお客さだったら、中に入れてあげて」「スコーンは焼けたらオーブンから出しておいて! 飲み物は紅茶だけだから、うしろに紅茶の缶があるから!」


 そんな風にあわただしく、ふたりに指示をしてから姿を消した。


「紅茶だけでこんなに……すごくない? 葵ちゃん、紅茶のことわかる?」

「……リ〇トン、午後〇紅茶、紅〇花伝」

「客がこないといいね……」


 焼きあがったスコーンをオーブンから取り出しながら、やっぱり自分もそう大差のない知識の花音かのんはそう言い、早くマリアちゃんが帰ってきますようにと、キリスト教徒でもないふたりは、マリアさまに祈った。


 そうは言っても今日の予約はなく、午前中はなにごともなく終わったので、ほっとしたふたりが冷蔵庫を開けて、『食べていいです』そう小さなメモが張られたクラブサンドを食べ、食後に嬉しそうにデザートのチーズケーキを食べていると、なにやら奥の扉が開く音がした。


「裏口でもあるのかな?」

「そうじゃない? マリアちゃんのお母さんかな?」


 当然ながら『ベーカー街221B』につながっている『アレ』があるなんてふたりは知らなかったし、なんならその『アレ』がつながらないように、マリアは自分の身長より大きな『アレ』を扉の前に引きずってゆき、どんと置いていたので、安心して出かけていたのである。



 それから時間は過ぎてゆき、ちょうどお茶の時間が過ぎる頃、ようやく帰ってきたマリアは、なんだか申し訳なさそうなワトスン博士とホームズがいるのを見つけた。


「……どうやって入ったの?」

「男二人でも大変だったよ、扉の前に『アレ』を置くなんて、部屋の模様替えのセンスを疑うねぇ……」


「いやはや申し訳ない。ハドスン夫人が親戚の見舞いに出かけてしまってね、わたしのクラブで食事をしようと誘ったのだが……」

「ここの方が近いし、面倒くさくないと思ったんだが……」



 ホームズとワトソン君は、そう言ってから黙りこんでいた。

 ふたりの前には、なにもついていない山積みのスコーンと、なにやらどす黒い色をした紅茶がアプレたカップ。そして蓋の開いたジャムのビン。床の上にはこぼしたらしき紅茶の染みと、蒔いたように飛び散っている紅茶の葉。


「このふたりは君と同じくメイドではないね! おそらくは、臨時でやとった君の友人かなにかで、あともうひとつ、この世界には日常的に、きちんと紅茶をいれる文化はない!」


『それくらい、わたしにもわかったよホームズ』


 ワトスン君はそう思った。


 一応は反対したものの、実は、ここでの食事を楽しみにしていたのに、いままで目の前で起きた出来事といえば、無理矢理開けたふたから紅茶の葉っぱが飛び散らかって、入っていた紅茶缶は床に転がるし、ティーポットから注がれるお湯が多すぎて紅茶は床にまであふれてびっちゃびちゃ、あわてたメイドのお嬢さんふたりが走り回るたびに、またまた被害が広がる……そんな目を覆うような惨状ばかりだった。


「頑張ったんだけど……」

「申し訳ありません……」


 マリアは、そんな風にしょんぼりしている友人たちに、「このふたりは客じゃないから大丈夫」そう言ってから、それでもワトスン博士には申し訳ないことをしたと思い、「少し待っていてください!」そう言うと母屋に走って行って、パンが入ったバスケットと、美しい小箱に少し変わったフランス風の料理が詰めてある物を持ってきていた。


 焼きたてのパンに、キャヴィアの乗ったオマール海老のガーリックソテー、鮮魚の香草グリル、フォワグラのオムレット、ローストビーフ、そしてマダムお手製であろう木苺のジュース。


「これは素晴らしい……」

「ちょうど、新しい寮生の歓迎会をしていたので、分けてもらってきました!」

「それはそれは、ホームズ、悪いことのあとには、良いことがあるものだなあ!」

「…………」


 おなかがすいていた上に、予想外の素晴らしい食事に、ワトスン博士は、いままでの不幸はすっかり忘れていたが、ホームズはそうはいかなかった。例のヤバい薬も切れていて、すっかりご機嫌が斜めになり過ぎていたのだ。


「この二人は君と同じで大学生、そして同じく女性としての教養も礼儀作法もなし!! はっ!!」

「…………」


 そんなことを言ったって、ビクトリア時代じゃないんだから!!


 と、マリアは思ったが、母のお気に入りでそろえた『英仏屋』の中が、あまりにもとんでもないことになっていたので言い返せず、偶然やってきて、ふたりと一緒に、片づけを手伝ってくれた学部の先輩に、しきりに恐縮しながら母のお気に入りのティーカップの無事を確かめていた。


 そのあとホームズは、幸せそうに御馳走を食べているワトスン君の横で、おが屑でも見るかのように御馳走を眺めていたが、マリアが用意した紅茶と、彼女が焼いたスコーンに、彼女が手作りしたというクロテッドクリームを添えたものを出すと、だまってもぐもぐ食べていた。


〈 近所の大学 〉


「シャーロック・ホームズがいた?」

「前に見たBBCの人にそっくりでしたよ! 態度まで本物そっくり! えっと黒いなんだかぴしっとしたスーツのイケメンでしたよ!」

「ふ――ん(マリアちゃんの親戚の人だろうな)」


 後日、マリアの特訓により、おいしい紅茶が淹れられるようになった花音は、紅茶を淹れながらそんな報告を朱雀部長にしていた。

 そして、ゼミの関係でまったく気づいてはいないが、遠い縁のあった中務教授(前世の記憶持ち)の部屋を訪れていた葵も似たような報告をしていた。


「あそこの紅茶は世界一おいしいと思います! あと、アフタヌーンティーのセットとか!」

「それはそれは、ぜひ行ってみたいね」

「紹介制と言ってましたから今度聞いておきます! 変な外国人の人もいましたけれど……有名な人? らしいですよ」


 葵ちゃんは、シャーロック・ホームズを知らなかったが、中務教授にこの間ごちそうになったお礼にと、やはりマリアの特訓によりおいしい紅茶が淹れられるようになったので、得意げに紅茶を淹れていた。


「どうぞ!」

「……ありがとう」


 胴着と袴姿で紅茶を淹れてから、さっさと消えた葵に中務教授は苦笑してたが、彼女が出て行ったあと、その姿を廊下の角から盗み見ていた怖い顔の弘子さんには、もちろん彼は気づいていなかった。


「メイド服……」


 きっとかわいかったんだろうなと、彼は思いながら廊下を歩いていると、例の部室長屋の近くで、男子学生が集まっていた。


「マリアちゃんはかわいいけど、東山ちゃんは普段の袴と、そう変わらんのう?」

「まあ、そもそも袴がこんな感じですしね……うちの神道は違和感しかないですね」


 そう言う彼らのスマホには、どうやって手に入れたのか、くだんの三人のスリーショット。


「……部活はどうしたのかな?」


 その後、少林寺拳法部の副部長は、スマホを取り上げられて説教されていたが、削除したはずのスリーショットは、なぜか朱雀部長と中務教授のスマホに転送されていた。

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