第8話「《最大隙間風(オーバー・ドラフト)》」



  ◇◇◇vs.双頭蛇尾(オルトロス)




『『ガウッガウッ!』』

『『『シュロロロロッ!!』』』



 双頭の方は片脚を失い攻撃がワンパターンになっているが、相変わらず蛇が厄介だ。


 なんとか折れたナイフを回収し不恰好な双刃で対応しているがは左手の柄のない刃物は防御には使えない。


 衝撃で指が飛ぶ。握り込む事もできない飾り。

 だが、“これ”が必要なのだ。


『シュロロロロッ……』


 1番奥で攻撃参加しない蛇も始末するために。


 あの死にかけ時の無駄な考察。


 個々に知能があるように見えたがどうやらそうではないらしい。


 独立しているように見える8匹の蛇。

 それらを操っているのはアイツだ……。


 あの個体が指揮系統で間違いない。


 俺が攻撃しようとすると、7匹の蛇はあの1匹を守るような動きを見せる。はなから逃げ腰だったから気づくのが遅れたが……、あの蛇を討てばなにかが変わるはずだ。




 キンッキンッ……クルッ、スッスッ!!

 


「はぁ、はぁ、クソッ……」


 もうどれくらい逃げ続けているのだろう。

 なにをこんなに必死に……。


 俺がこんな化け物に勝てるわけが……、



「レイ様!! 私の事はお気になさらずとも大丈夫です! スキルを使用して下さい!!」



 突然の叫び声にチラリと声の主を見る。


 血まみれの口からは鋭利な牙。

 サラサラの銀髪は返り血で赤く染めたまま。


 いつも無表情だった真っ赤な顔はわずかに微笑んでいる。まるで、俺ならこの化け物に勝てると思っているような真紅の瞳で……。



 ハハッ……たまらないな。

 おそらく俺のスキルを知らないのだろう。


 もうすでに使えるものは使ってる。

 “微風(そよかぜ)”は何度も何度も繰り返してるさ。



 キンッキンッ、スッスッ!!



 ふっ、それにしてもおかしな事をいう。

 “私の事はお気になさらずとも大丈夫です”?


 まるで俺がスキルを使えば周囲にも被害が出るとでも言いたげだ。



 キンッキンッ!! クルッ! ススッ!!


 

 あるいは、『隙間』があれば……。

 いや、地面に裂け目はあるが、触れる必要がある。しゃがみ込む余裕なんてないし、これほど大きな物だと少しばかり冷たい微風が返ってくるだけ……。


 もっと……


 ――すげぇ。ダンジョンの壁は壊れるんだな! 流石だぜ、“先輩”!!


 そう……。“小さな亀裂”が入ってる壁ならそれを広げ、道を開けるくらいの威力が出る。


 『隙間』に風を送るのがこのスキルの本質……。入り口が小さければ小さいほど圧縮され、重なれば重なるだけ冷気へと姿を変える……。



 キンッ……スッスッ!!



 ふっ……、なにをいまさら……。

 俺のスキルなんて……火おこしにしか役に立たない。微風(そよかぜ)だって、長年の経験をサポートする程度。威力が出ると言っても、微風を内部に送り込み亀裂を広げる程度。


 この化け物に通用するはずもない。


 “腕力女”の言葉がなんだって言うんだ。

 まず、あの“司令塔”をこの切先だけのナイフで……。



 目標に改めて視線を送る。


『シュロロロッ……』


 ドクンッ!!


 俺で遊んでいるかのような顔が、あの2人を彷彿とさせ、心臓が跳ねる。


 いつでも殺せる。

 絶望を与えられる。


 その勝ち誇った顔が気に入らない……。

 全て自分の思うがままってツラが我慢できない。



 ドガガッ!!



 激しい衝撃と共に、俺は気がつくと満月を見上げていた。ボキボキッと体の内側で鳴った音と身体の左側が無くなってしまったかのような衝撃……。


 冷静さを欠いた。

 集中力がわずかに切れた。

 ギリギリの綱渡りの最中、“よそ見”をした。



「レイ様!!」



 悲鳴にも似た叫び声でギリギリ意識を保つ。


 オルトロスの左脚に叩(はた)かれたんだと、理解するのに時間がかかった。


 なぁに、爪で裂かれたわけじゃない……。


 欠損箇所がないのが、その理由……。

 しかし……、まあ骨はバキバキだろうが……。



 ドゴッ!!



 背中を大木に打ち付けると同時に全身に激痛が押し寄せる。震える右手でポーチへと手を伸ばすそうとするが、ビキッと全身に激痛が走りポーションを取り出せない。


 そもそも遠征帰りだ。品質が悪くなるからと、小さな怪我に使ってしまっている。


(こりゃ……、ははっ。やばいな……)


 何やらニヤけ面のオルトロスが右脚を引きずりながらこちらに向かってくる。視界の端には這いずりながらこちらに向けてなにかを叫んでいる少女。



 キィーンッ……



 耳鳴りがひどくて音が無い。

 オルトロスの笑い声もアイリス嬢の叫び声も聞こえない。


「まだ、死なない……」


 まいったな。自分の声も聞こえない。


『『ガウッ――――バウ――バウッ……!!』』


 目の前でケラケラ笑いやがって……。



 ボヤァア……



 薄れていく視界の中に“隙間”を見つける。


(なんだ急に……こんなとこに隙間なんてあったか……?)


 思考すらままならない。

 でも、もうこれしか希望がない。


『『ガウガウッ――グルバウッ――!!』』


 目の前に犬の顔が二つある気がするが、


 スゥー……


 俺は手を伸ばす。

 見つけた隙間めがけて精一杯に手を伸ばす。


 ……あぁ。散々だ。

 なんて日だ……。今日という日は本当に……。

 人生最悪の……、



 トンッ……



 “隙間”に触れる。



『『ガウガ、』』


「《最大隙間風(オーバー・ドラフト)》」



 ピキキキキッ……パァンッ!!!!



「ほらロウ……、壁、開いた……ぞ……」



 うわ言のように呟き、そのままドサッと前のめりに倒れたところで俺は意識を失った。



『レベルアップ。ステータスがランダムに強化されます』

『レベルアップ。ステータスがランダムに強化されます』

『レベルアップ。ステータスがランダムに強化されます』

『レベルアップ――――――――』…………

『レベル100に到達。以下のスキルから取得するものを選択して下さい』

『レベルアップ。ステータスポイントが支給されます』

『レベルアップ。ステータスポイントが支給されます』

『レベルアップ―――――――』




  ※※※※※



 パァンッ!!!!


 弾け飛んだオルトロスの肉片。

 月夜に照らされるそれらは氷の結晶のように少しキラリと輝き、盛大な血の雨となって森に降り注ぐが、その血肉は猛毒である。


 オルトロスの最期の足掻きが、“勝者”を襲うが……、



「…………《聖盾脱獄(プリズンブレイク)》」



 アイリスは薄れゆく意識の中、ポツリと呟く。


 一向に吸血衝動を抑えられず、激しい倦怠感と飢餓感に襲われ、全身に力が入らないアイリスの奥の手。



 ポワァアッ……!!



 それを自らとレインの頭上に置いた。


 解き放たれた聖盾(ホーリーシールド)。

 その範囲内は神々しい光に護られ、その聖なる光は傷ついた者を癒やし続ける結界となる優れものだ。



「ハァ、ハァ、ハァ……。これで大丈夫です」




 ザザザザァアッ!!



 結界を殴るように猛毒である血の雨が降る。


 護られているのは意識のない2人の男女。


 アイリス・フォン・ディアルノ。

 スキル【監獄(タルタロス)】。

 最上位スキルである神の名を冠するスキルを持つ神代者(ギフテッド)の1人であり、『半吸血鬼』の少女。


 レイン・ラグドリア。

 スキル【隙間風(ドラフト)】。

 『災厄』双頭蛇尾(オルトロス)討伐により、レベルが103となった男……。人類初のレベル3桁という偉業をなし、人類初の二つ目のスキルを手にする男。


 これは成り上がりの第一歩。

 まだまだ続く、小さな成長の第一歩。


 後の英雄神話の序章は、『災厄魔獣“オルトロス討伐”』から始まる。












 

※※※【あとがき】※※※


次話はクソビッチ!


「結局無双系かよ」と思った皆様方!!

そう判断するのはまだ早い!!ww


オルトロスの推定レベルは300くらいですね。


無双系要素もありますが、レインは試行錯誤しながら成長していく主人公を目指しています!(人類の中ではすでにかなり強者の部類ですが笑)


フォロー&☆で応援してくださってる皆様、

わざわざコメントで応援してくれてる方々、

本当に感謝です。


今後も楽しみ!と思って頂けましたら、フォロー&⭐︎で応援してくれれば、更に頑張れますのでよろしくです!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る