そうだ、お礼してもらおう。

怖いことは無理にしない主義

 無事に亀を助けた浦島太郎。亀を撫でてやると、なんと亀が話し出しました。


「ありがとうございます。浦島さん、お礼に竜宮城に連れて行ってあげましょう」

「え、どこそこ?」


 亀はふふ、と笑って、海の方を指(ヒレ)さしました。


「竜宮城は、海にあるんですよ。美味しい食べ物もいっぱい。助けてくれたお礼に招待します!」

「ふ~ん」


 何やら険しい表情をしている浦島。どうしたのでしょう?


「それってあれ? 泳いでいかなあかんの?」

「まあ、そうなりますよね」

「あ~──ええわ」


 なんと浦島、この誘いを断りました。亀は困惑します。


「なんでです? 人間が竜宮城に行けるなんて滅多にないですよ?」

「それがなあ」


 浦島、照れくさそうに微笑みました。


「海、怖いねん」

「ああ、なるほど……」


 亀は爬虫類らしからぬ渋い顔をして、コクコクと頷きました。


「なんか、藻とか絡みつくの気持ち悪いし、暗闇からニュッとデカい魚とか出てくんの想像したらもう……いやあん!! 止めて! 想像させんといて!」


 浦島はそう叫ぶと、身を捩りながら海とは反対方向へ駆けていってしまいました。


「まあまあ、そういうこともあるよなあ……うん。海が好きで釣りに来てるけど、海に入るのは怖いっていう人も、おるよなぁ……」


 亀は必死に自分を納得させ、「ありがとう」という言葉でしか感謝の気持ちを伝えられなかった自分を責めないようにしましたとさ。


 めでたしめでたし。

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