父親の威厳

 むかしむかし、とある海辺の村に、浦島太郎という青年がおりました。釣りという脅迫観念にとらわれ海辺に向かうと、亀をいじめているガキンチョ共がいました。


 いじめが生理的に無理なので、彼は止めに入ることにしました。


「おいお前ら、いじめあかんやろがい!」

「うわ大人やん! 逃げろ!」


 ガキンチョ共は浦島の怒号に恐れをなし、駆け出していきました。


「大丈夫か?」

「うん、大丈夫! ありがとうね!」


 亀はそう言って、にっこりと浦島に笑いかけます。そのとき。


「ギィヤャャャyァyァヤッヤヤヤッヤアアアアアアアアア!!!!」


 というどでかい海獣の声が耳をつんざきました。大地が割れんばかりに揺れ、風は殴りつけるように吹きすさびます。浦島がはっと海の方向を見ると、海が盛り上がり、何か大きな岩のようなものが生えてきました。


 徐々にその姿が露になるにつれ、浦島の肝は冷えに冷えてゆきます。幼い頃、ブラ

ウン管の中で町を破壊していた、あの海獣──。


「……ゴジラやん」


 立っている、というよりかは、そびえている感じです。浦島は腰を抜かし、失禁してしまいました。


「あ、お父さんだ!」


 なんと、この亀はゴジラの息子のようです。


『お前、息子をいじめたのか?』


 途方もない空から、重低音の声が浦島に降りかかりました。どうやらゴジラは、浦

島が亀をいじめていたと勘違いしているようです。


「ち、ちがいます! 僕は助けたんです!」

『え、なんて?』


 距離が遠いのもあってか、浦島のか弱い声帯では届きません。


「だから、僕じゃ──」

『聞こえへんから、死ねぇ!』

「ちょっと待って!」


 ゴジラは浦島の叫びを無視して、大きく口を開けました。口の中では、青色の閃光がほとばしっています。


「あ、終わったわ」


 浦島が亀を助けたばっかりに、彼が住んでいた村一帯は一瞬で吹き飛びましたとさ。


 めでたしめでたし。

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