この亀のせいで、俺は幸せになれない。


 むかしむかし、とある海辺の村に、浦島太郎という青年がおりました。フィッシングな気分だったので、いつも通り海辺に行くと、亀をいじめているガキンチョ共がいました。


 いじめを見ていると反吐が出るので、浦島は止めに入りました。


「おいお前ら、亀いじめたらあかんやろが!」

「うわ、大人や! 逃げろ!」


 ガキンチョ共は騒ぎながら逃げていきました。


「大丈夫か……ん?」


 亀に声を掛けてみましたが、いつもの亀とはなにかが違う気がします。なんか、ごつごつしてるような──。浦島は、ちょっと触ってみることにしました。


 浦島がその亀に手を伸ばしたその瞬間、亀がキッと浦島を睨みつけ、その手に噛みつきました。


「うあいたっ!」


 もの凄い力です。自分の手に噛みついている亀をまじまじと正面から見て、気付きました。


「これ、ワニガメや!」


 危険外来生物に指定されている、あの亀でした。最悪です。


「ごめんごめん、痛いって!」


 とりあえず謝りながら騒ぐ浦島でしたが、ワニガメは全く手を放そうとはしませんでした。もう一生このままなのか……。浦島は深く項垂れました。


──十年後。


「ってことがあって、まだ噛みついてるんですよ」


 すごいでしょ? と言って、浦島は笑います。


「いやあ、それだと、ちょっとうちでは雇えないかな。今日は帰って貰って。また、取れたらきてください」

「はぁ、やっぱりそうですよね……」


 浦島は、求職活動中でした。しかし、この亀のせいで面接は落とされまくりです。


「なぁ、お前、もう離れてくれへん?」


 そう亀に話しかける浦島。彼は傾いた夕日に焦燥感を煽られながら、とぼとぼと家路を踏みしめるのでしたとさ。


 めでたしめでたし。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る