ありがとうって伝えたくて

 むかしむかし、とある海辺の村に、浦島太郎という青年がおりました。釣り中毒者の浦島がいつも通り海辺へ行くと、亀がガキンチョ共にいじめられていました。


 いじめ、ダメ、ゼッタイ。ということで、浦島は止めに入ります。


「おいお前ら、いじめあかんやろがい!」

「うわ、大人や! 走れ!」


 ガキンチョ共は浦島に恐れをなして、走って行きました。


「大丈夫やったか?」


 浦島はそう亀に声を掛けました。しかし、亀は浦島の方を見ようともしません。


「……余計なことすんなし」


 亀はなぜかふて腐れているようです。


「別に助けろとか言ってないし」

「お前、素直じゃないなあ」


 この亀、『ありがとう』ただその一言が言えないようです。


「お前が来んくたって、一人でなんとかできてたしな」

「いや、めっちゃ為す術なさそうやったで? ありがとうぐらい言ったら?」

「うるさいわボケぇ~!!」


 叫び慣れていないような情けない声で、亀は声を張り上げます。


「俺一人で十分やったし! お前、もう二度と余計なことすんなよ! じゃ、俺は帰るから!」


 亀はそう言って、そそくさと海へ帰っていきました。


「……なんやねんあいつ」


 ちょっとかわいいかも、と思ったのは、浦島だけの秘密です。


 めでたしめでたし。

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