Ⅱ‐8 ストーカー
じっと・ずっと/じっと
未来は過ぎ去り過去はまだ来ない
それは一つの繰り返し
それとも言い直し
書いたことが実現すると云った
キミが夢見たことじゃなく
夢が見たキミだ
生命線 運命線 太陽線 知能線
感情線 向上線 健康線 火星線
犬の仮面を被った鴨たちが
ある日一斉に蜂起し
飛んでいなくなる
煩い場所で静かにファックした
蠢き 叫んで 暗転
明日は蟲の餌
結婚線 財運線 直感線 人気線
印象線 妨害線 寵愛線 影響線
ああ、足りない 足りない 足りない……
ああ、落ちてく さらさら さらさら……
ああ、見えない 見えない 見えない……
ああ、どこまで こなごな こなごな……
箱庭トラヴェラーズの演目『僕が君を食べた朝、母も僕を食べたのだった』の初日までにはまだ二ヶ月以上あり、その間、わたしたちはムラサメの生まれた遠い西の街でのステージも含め、複数の会場で新譜披露も兼ねたリサイタルをすることになる。
名古屋(水)→梅田(木)→岡山(土)→福岡(日)→高崎(木)→仙台(土)→郡山(日)→渋谷(木)→長野(土)といった日程だ。
多くの会場がタオとムラサメには経験があったが、わたしにとっては初めての場所が多い。
「カヲルにとってはさ、本格的な全国デビューだな」
とムラサメが云うから、
「何云ってんのよ、アンタたちだって同じじゃないの」
とわたしが虚勢を張る。
タオはニヤニヤと、けれども静かに笑っている。
「そういえば、二人とも地元ファンがいたよな」
と、これはユシマP。
「気をつけろや」
「えっ、出待ちとか、そんなん?」
と、わたし。
「まあ、そんなモン。で、こっちのファンより気性が荒かったりするからさ」
「襲われたりとか?」
「アイドルじゃないから、そこまで怖くはないよ」
「そーいえば数年前、家の前で一晩中立ってのがいたな」
とタオ。
「えっ、怖いわね。……誰よ?」
「なんていうの、アレ、玄関のドアについてる覗き窓?」
「ああ、あれはね、ドアスコープって云うんだ」
とユシマP。
「良く名前を知ってますね」
と、ちょっと感心してわたし。
「ま、それも商売のうちだから」
と、けっこう得意顔のユシマP。
コーヒーとコーラを啜る音。
「で、覗くと、真剣そうな、困ったような顔をした女がいてさ」
とタオが話を引き戻す。
「うんうん……で、した女がいてさ、で?」
と興味津々にわたし。
「まあ、オレだって怖いから、ドア越しに『今日は帰りなさい』って云ったら、泣きそうな顔をして帰ってったよ」
「そお……。でも、よく泣きそうな顔だってわかったわね」
とわたし。
「外階段を下りたら、絶対に窓の方を振り返るだろうと思ったから、こっそり覗いたんだよ。窓の陰から……」
「厭なヤツだな」
「で、それが数日続いて、そのうち昼間にも来るようになってさ」
「えっ、嘘?」
「ホントだよ。で、根負けして付き合うことにした。……一生懸命だったけど、作ってくれた手料理は全部下手だったな。ま、今でも下手だけど」
「えっ、それって?」
「ウメコさんだよ」
とムラサメ。
「ストーカー冥利に尽きるな。オレさえ知らないうちにくっついてたよ」
と話を締める。
「でもタオってその頃、彼女いたんじゃなかったっけ?」
と首を捻りながら、わたし。
「二、三人はいたかな? でも、どうしても欲しいものはさ、絶対手に入れるんだってよ。誓って絶対手に入れる、って」
とタオ。
「後でウメコがそう云ってたよ。風呂入りながら……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます