Ⅱ‐7 演劇風
話し合いの結果、提供する新規の楽曲は三曲に決まり、劇に必要な残りの四曲は過去の作品を使ってもらうことになる。
演劇団・箱庭トラヴェラーズの次の公演は約一ヶ月間続く予定だが、その初日と千秋楽には、わたしたちが生で演奏することに決まる。
正直云って、わたしはビビリ捲りだ。
肴/さかな・魚
あなたの顔が段々と変わっていって
ついに魚になった
だからあなたとすれ違った詩人は吃驚してしまって
本来吐くべきだった息を飲み込んでしまい
それからしばらく経って
ふう はあ ふう と魚臭い息を吐いた
そういった日常もある
月の痘痕がだんだんと変わっていって
ついに魚になった
だから望遠鏡で観ていた人は吃驚してしまって
本来描くべきだった地図を間違えてしまい
それから結構長く
ふう はあ ふう と魚臭い夢に落ちた
だが、それは御伽噺だ
攻めて来るのはサンショウウオばかりではない
アダムはいつだって間違いを繰り返す
ぼくが好きなのはあなたの横顔じゃなくって
今更のように檻の中に引き返すのか?
みんなの顔が段々と変わっていって
ついに魚になった
けれどぼくだけはいつまでも同じで困惑してしまって
本来知るはずだった愛を失ってしまい
それから一遍死んで
ふう はあ ふう と魚臭い息を嗅いだ
傍らで笑うのは誰?
攻めて来るのは人間型ばかりではない
国家ははいつだって間違いを繰り返す
ぼくが好きなのはあなたの闘争じゃなくって
今更のように母の胸に眠る姿だ!
サンショウウオやアダムの件(くだり)は、もちろん劇団側の入れ知恵だ。
……ということで、それを受け入れた時点で――こちらの方が取り分は多かったとはいえ――歌詞の版権は箱庭トラヴェラーズにも与えられる。
これまでは詩も曲もバンド名義――つまりはわたしとタオとムラサメ三人の共著――だったが、今回の歌詞はわたしとシカマさんの八対に二で、曲がバンドの三人でということに決まる。
もっとも歌詞に関してはタオもムラサメも最初から、
「カヲルの単独名義でいいじゃん」
と主張していて、わたし一人が、
「だってアンタらがいなかったら、どの曲の歌詞も出来なかったじゃない!」
と言い切り、無理矢理納得させる。
イヤ、実際には納得してはいないだろうが……。
母が知ったら、きっと、
「あんたはバカね」
と云われるだろうと思う。
でも母は、
「まあ、アンタはわたしの娘だからね」
と続けるだろう。
でも、それは思い上がりかな?
まあ、いいけど……。
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