Ⅱ‐1 テンポ60

 ムラサメは結構デカくて身長が一九〇センチメートル近くある。

 我がバンドに限って云えば、その次に背が高いのがわたしで一七五センチメートル弱だ。

 最後がタオでほぼ一七〇センチメートル。

 でもタオは手と足が長い。

 尻が小さい。

 だから仕種は似ていないけれど、凶暴ではないチンパンジーのように見えることがある。

 凶暴ではない大人のチンパンジーがいないように非凶暴ではない大人のタオもいないのだろうか?

 いややはり、そんなことはないか?


ソラリゼーション/爽快


 詩人が生きていた頃

 町には貧困があった

 子供がお腹を空かし

 誰彼なく物乞いした


 絵描きが亡くなったとき

 故郷の山は消えていて

 若者が職を求め

 六割方弾かれた


 昔はいつも美しく

 昔はいつも忘れられ

 昔はいつも今はなく

 昔はいつも願われた


 歌い手が世を儚み

 空には弾道が見えて

 老人が死を選ぶと

 不具者が生贄となる


 彫刻家が立ち尽くし

 海では生物が溺れ

 妊婦は汚染されても

 次の命が生まれる


 未来はいつも清潔で

 未来はいつも笑みとあり

 未来はいつも今はなく

 未来はいつも輝いた


 それを奪ったのは誰でもない

 この星はそんなこと知っちゃあいない

 それを奪ったのはおまえたち

 おれたちはそんなこと知っちゃあいない


「えっ、これメジャー・キーでやるの?」

 とタオ。

「うん。そうでなきゃ意味ないじゃん」

 とわたし。

「……って云うより、明るい感じが欲しいんだろ?」

 とムラサメ。

「そうね。良くわかっていらっしゃる」

「あ、そう。……で、リズムは?」

 とタオ。

「ちょっと白けた感じで、バン・ドン・ドン/バン・ドン・ドン/バン・ドン・ドン/バン・ドン・ドン……って、テンポ60くらいで」

「60? かなり鈍いな……」

 とタオ。

「難しい?」

「いや、できるけど、腕、攣りそうだ」

「裏のベースは倍速で、どう?」

「あ、それ、わたしも考えてた。でも最初は死体か、バイオリンの練習曲みたいに、とにかくゆっくりがいいな。同じ音で……。それから突拍子も入れて」

「またまた、難しいことをおっしゃる」

 とタオ。

「出来ない?」

「いや、できるけど、その速度じゃ、突拍子だってバレるよなぁ」

「ベースラインを突拍子前後で変えようか?」

 とムラサメ。

「さあて、どうなんだろう? その辺りはわかんないな。やってみないと」

 とわたし。

「歌メロは?」

 とタオ。

「牧歌的にしたいけど、どうだろうねぇ」

「じゃ、とにかく、やってみて……」

 と、これはムラサメ。

「えーとね、じゃあ取り合えずCだったら、ミーレドレ(タータタタ)ミーレドレ(タータタタ)/ミミラソー(タタタター)/ファーファミレド(ター・タタタ)/レーソ(下)(ター・タ)……最初はこんな感じで」

「で、続きは最初は同じで……」

 と云いつつ、ムラサメがベースで先を弾く。

 ミーレドレ(ボーンボボボ)ミーレドレ(ボーンボボボ)/ミミラソー(ボボボボーン)

「うん、そう。……で、ファーミレドー(タータタンタ)/レーソ(下)ド(タータタ)……って続く」

「うーん。終わり方が足りない感じ」

 とタオ。

「ま、それは徐々に、ってことで」

 とわたし。

「サビメロは?」

 とムラサメ。

「上のミからがいいと思うんだけど意表を突きたいんで、まだ……」

「じゃ、最初のサビからベースラインを歌メロと離すわけだな。カヲルはどんな感じが欲しいの?」

「さあ、まだわかんないよ」

 すると……

「ところでさ」

 とタオとムラサメが同時に指摘。

「最後のシメはいらないと思うな/よ」

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