Ⅰ‐10 ステージ
タオとムラサメとわたしでバンドを組むことに決まり、ロック系インディーズでは有名処数ヶ所にデモテープを送る。
それからいろいろあって、どの会社も採用してくれたが、一番条件の良かった『響音』レーベルと契約したら、いきなり野音のコンサートに抜擢される。
参加バンドは五つで、わたしたちの出番は真ん中。
最低三曲か、三十分のステージを言い渡される。
複数のバンドが同じステージに上がるコンサートの場合、面倒なのが、PAが共通ということだ。
ドラムセットも共通のことが多いが、響音のスタッフはタオのセットを――移動式にはしたが――きちんと組ませる。
それはまあ、バンドの目玉がタオのドラミングなのだから、当たり前と云えば当たり前のことだったが……。
けれども人に合わせるのにいつも吝かではないタオは、
「別に、おれ、誰のでもいいーっすけど……」
と新人らしい腰の低さを見せ、スタッフたちの評価をさらに上げる。
もっともタオにしてみれば、弘法は筆を選ばす、の実践なのだろうが、そうはいってもセットが違えば音は変わる。
でもタオはどんなドラムセットを使っても結局――呼ばれたバンドに合わせた音ではあるが――自分の音を出す。
濃い蒼い照明は黄昏時のようで、暗く紅い照明は街角の死のようだ。
わたしは自分のギターでハウリング奏法をしないが、その夜は異常なハウが起こって、マイクの音声も罅割れる。
タオとムラサメはリラックスしていたが、わたしは緊張感マックスで、歌詞こそ忘れなかったが、二曲目でもう喉を枯らす。
本来なら出る声域なのに、どうしても出なくて、ガナるような感じになる。
でも……。
「ハスキーで良かったよ」
とステージ直後にタオが云う。
「でも上は出てなかったな」
と続けてムラサメに事実を指摘すると、あろうことかムラサメが、
「カヲルはこんなステージ初めてのくせに堂々としてたよ。立派、立派!」
と、わたしを褒める。
「でもPV……って云うか、映像が残るから、次からは外すなよ」
おまえのために……。
慰めるんならそこまで云えよ、バカ! と心の中で思いつつ、
「うん、ありがとう」
と、わたしはムラサメに素直に微笑む。
紫外線/虚空
土から戦車が沸いてくる
生物のいない星で殺された機械知性のために
創造はある
空から便りが降ってくる
神が溢れた庭で生かされた蝋人形の許に
救済はある
非破壊のために戦車はあり 戦車はそのためにしか存在しない
非放置のために頼りはあり 頼りはそのためになお非在化する
理由など何処にもない
理由は安寧のために求められる
答えなど幾らもある
答えは必要のために選択され
戦車が沸いてくるためには まず憎しみがあって
会話が閉ざされる
便りが振ってくるためには まず投函があって
相手が愛される
けれどもぼくのまわりには投函がなく
けれどもキミのまわりには憎しみがある
時が経って 戦車も便りも時空の中の屍となって
次に生まれてくる生命体/非生命体に認識されるまで静かに眠る
その完全等方時空の水銀のような眠りを妨げるモノは今はいない
その完全等方時空の内臓のような眠りを妨げるモノが明日に光る
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