Ⅰ‐6 非纏

 とにかく人が大勢いた

 全員が目的地があるように歩いていた

 大人がいて壮年がいて老人がいた

 子供がいて青年がいて老人がいた

 老人の数が多かった。

 でも、それは単に見せかけかもしれなかった


 ああ、きみは何処にいるんだ?


 結局その部分だけを歌メロにする作曲を考える。

 使途の名前の四ヶ国語による連呼だ。

 あまり多くてもなんなので自分の法則で割愛……というか整理する。


 ヨハネ  ジョン  ヨハン  ジャン  ジョヴァンニ

 ユダ   ジュダ  ユダ   ジュダ  ジュダ

 ヨセフ  ジョセフ ヨーゼフ ジョゼフ ジュゼッペ

 ルカ   ルーク  ルーカス リュック ルカ

 マルコ  マーク  マルクス マルク  マルコ


 で、実際にまとめてみると自分でもまるで意味が見出せなかったので、すべてボツにする。

 諦めて最初に戻る。

 でも、その前に……。

「ピーター・ロディア」

 タオが云って、なるほど、と意味が繋がる。

 ロディアはタオが最近特に気に入っているイタリア系アメリカ人ドラマーだ。

 元々、引っ張りだこの有名スタジオミュージシャンだった人物。

 一時期、ミルククラウンという環境音楽的だが、どこか得体の知れないドイツのバンドに在籍していて名を上げる。

 その後乞われてメタル系バンドの初期メンバーに加わったり、イギリスの地主ギタリスト――元アイドル――の滅多に出ないアルバムに参加したりなどして話題を振り撒く。

 いずれにせよ、正確無比なドラミングが身上だ。

 そういえばタオと似て、ドラマーとしては小柄。

 もっともだからと云ってパワー不足なんてどこにも感じさせない。

 もうすぐ五十五歳だと云うのに……。

 すげえな!


 駝鳥の引く乗合鳥車を避けながら広場を横切った

 駝鳥は気性が荒いので、とにかく気をつけなければならない

 耳を澄ますと心の内と外でわんわんと鳴る声が大中小のポスターの形で街角に貼られているのに気付かされる

 その中から少しでも探索に関係ありそうな言葉を拾って一つ一つ小まめに嗅いでいると、うっかりと駝鳥に足を踏まれた


 ああ、きみは何処にいるんだ?


 何となくきみに似た人影を見かけたので、その後を付けていった

 まだ声はかけられない

 そのうちにぼくは背後に味を感じてしまった

 そして逃れられない、その味は一周まわって文字色の触感に変わって、ぼくに纏わりついた


 ああ、きみは何処にいるんだ?


 いつもの結論が近づいてきたので、ぼくは息苦しくなって、出口を探す

 出雲の大社が目の裏で笑って、ぼくは行き場を失って、入口に戻る

 出口の枠組みが笑う匂いたちで、ぼくは粋を演出して、吐き気堪える

 入口すでになく背から刺されたので、ぼくは生きられなくなって、その場倒れる


 ああ、きみは此処にいたんだ!

 ああ、ぼくは死んでいたんだ!

 ああ、きみは此処にいたんだ!

 ああ、ぼくはきみでいたんだ!(記号/偶像・案1)


 その昔、この世には大勢の天使がいた

 今でも、ずっと南の凍って寒い大地の上を飛んでいる姿が緑の国の人々に目撃されることがあるようだが、レーダーに映らないので存在しないことにされている

 天使は昔、とても大きな身体をしていたが、人々が信じることを止めてしまったので、身の丈がぐっと小さくなってしまったようだ

 だからあの日、ぼくが見かけた天使は夏の終わりに飛ぶ瑠璃色の蜻蛉くらいの大きさしかしていなかった(記号/偶像・背景で重なる語り=独白案1)


 天使は可食だが、その構成物には毒が含まれていて、食べるとお腹を壊す

 場合によっては死んでしまうこともあるらしい

 でも年に数人は天使を食べて死ぬ人がいるのが事実なのだ

 ああ、その理由なんて、ぼくは知りたくもない(記号/偶像・背景で重なる語り=独白案2、あるいは三重の語り?)


 起きていたはずなのに もう一回目を覚ますとぼくの目の前には巨大な駝鳥の口があって

 あっという間に飲み込まれてしまったぼくはもう一つの広場の中にいた

 そこも人で溢れて溢れて溢れていて、仕方がないので

 ぼくはきみになったぼくを探そうと広場を風呂敷に仕舞って燃えないゴミの日に捨てた


 ああ、もうループやサイクルやスパイラルはたくさんだ!

 ああ、もうループやサイクルやスパイラルはたくさんだ!


 すると突然、そんな声が聞こえた

 声はぼくの中からも、ぼくの外からも聞こえてきた

 ぼくは躊躇わずに声の教えに従って行動した

 駝鳥の腹の中の街の、駝鳥の腹の中の街の、駝鳥の腹の中の街で……(記号/偶像、これは無いな、たぶん)

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