Ⅰ‐4 蝦

外宇宙/石鹸


 ぼくの瞳の中のきみの瞳の中のぼくの瞳の中のきみは他人

 きみの瞳の中のぼくの瞳の中のきみの瞳の中のぼくは誰?

 庭に干された死体は空中で溺れたきみの群れ

 岸のお洒落な市街の階段に浮かんだぼくの化石

 時の流れが違うからぼくときみが会えるのは一昨年

 ズレてしまったのは再来年に蝦を食べてしまったから……


 窓の外から聞こえるのは演歌かまたはフォークソングになり損ねたムード歌謡で

 あなたの頭の中は文字で一杯になって破裂して

 そこから時間はスパイラルを一回か二回半くらい下降して

 等身大の蝦が素揚げされる匂いが聞こえてきて

 

 ハキソウデハケナイムカシハミライヲイクラダッテスキナダケハケタトイウノニ……


 船の底から撒かれえるのはカツオかまたはカジキマグロに成り損ねた生命体で

 あなたの身体の外は液で一杯になって嘔吐して

 そこから光子はスパイラルを一回か二回半くらい誤魔化して

 宇宙規模の蝦が消化される景色が聞こえてきて


 ぼくの瞳の中のきみの瞳の中のぼくの瞳の中のきみは他人

 きみの瞳の中のぼくの瞳の中のきみの瞳の中のぼくは誰?

 庭に干された死体は空中で溺れたぼくの群れ

 岸のお洒落な市街の階段に浮かんだきみの化石

 時の流れが違うからきみとぼくが会えるのは一昨年

 ズレていったのは、「ああ、何てこと!」あなたを食べてしまったから……


 ハキソウデ ハケナイ ムカシハ ミライヲ イクラダッテ スキナダケ ハケタトイウノニ……


 吐けそうで吐けない 昔は未来を、いくらだって好きなだけ 吐けたと云うのに……


「ひとつ聞いていい?」

 とムラサメが問う。

「何で『蝦』なわけ?」

 目を丸くしながら、わたしが答える。

 メロンパンを食べながら……。

 適度に皺がよって脳味噌みたいに見えるメロンパンだ。

「蝦じゃなければカミキリムシだけど、そっちの方がいい?」

「どっちにしろ、わかんねーよ」

 とムラサメ。

「カミキリムシの方が巨大感はあるかな……」

 とタオ。

「エビってシュリンプだから、ベースラインそうしてみてよ。しゅりんぷ・シュリンプ・しゅりんぷ・シュリンプ……」

「あ、でも、それ小エビのことだから……。伊勢海老みたいな大きいのがロブスターで、車海老サイズがプロウンまたはプローン」

「じゃ、ドラムの感じは、ロブスタ・ロブスタ・ロブスタ・ター、プロウン・プローン・プロウン・ロン……にするわ」

 そう云うとタオはシャキシャキした感じの音でドラム音を叩き始める。

「おまえ、頭、おかしいんじゃーねーの!」

 とか云いつつもムラサメがベースを、

 しゅりんぷ・シュリンプ・しゅりんぷ・シュリンプ……

 と合わせて踊る。

「おい、ちょっと待て! 歌メロを無視すんなよ」

 とわたしが云い、

「でも、そこを合わせるのがプロだろう。……まだ、セミプロだけど」

 とタオが笑う。

 わたしは、

「おまえらゼッテー許さねェ!」

 と、とりあえず悪態をついてから、

「アアアアア…あああ………アアあああ」

 と、まず歌詞なしで歌メロの修正を始める。

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