16 結婚と就職と旅行と

「え、それで結婚相手が決まってしまったわけ?」

「簡単すぎない?」

「簡単だけど、何か楽しそうだし」


 スノウリーもマーシュリアも顔を見合わせ、私に呆れた。

 私はラドテイル・ミハーレンと会った翌々日、私はこの友人二人のもとにと報告に向かった。

 紹介してくれたサイシャンド兄には当日のうちに、「気に入った」「結婚したい」という思いを告げている。

 サイ兄の行動は早かった。


「よしお前がその気なら!」


 と、出張中の父、トリソニク子爵、そして家族全員にこのことを告げると、結婚に向けての計画がスタートした。

 何というか、末の妹である私の結婚を皆待ちわびていたらしい。

 一緒に住んでいるのは長兄から五兄一家、婿をとった次女一家、それに北西の辺境伯から送られてきて養子となっている若手の男女一人ずつ。

 彼らが一丸となって、慌ただしく身内と近しい友人達だけを招いた結婚式を企画しだした。

 そうなると、当の私本人と、相手のラドテイルは「出番が来たら呼ぶから待っててくれよ」ということになり――


「すみません、何か自分もこんなに早く事が進むとは思っていなくて」


と一緒に来ている始末である。

 まあ私自身、未来の記憶の中で二人に彼を会わせて評価してもらっていた。

 マーシュのこともあるので、今回は特にきっちり見せておかないとスノウリーなど特に納得しないだろう。

 そしてもう一つ。


「それで彼がまだ卒業後の職場が決まらないっていうんだけど」

「ああ、それじゃあお父様に聞いてみるわ」

「あ、そうじゃなくて」


 すぐにでもマドリガヤ侯に連絡しそうなスノウリーを私は止めた。


「仕事の口、には違いないんだけど、侯爵にこの人の話を聞いてもらいたくって。その上で落とすならそれでいいの」

「…就職口が必要なんじゃないの?」

「できれば、やっぱり専攻したものを生かせる方がいいでしょ?」


 スノウリーは首を傾げると、少し考え――やがてこう言った。


「じゃあ、ミハーレン男爵、あなたの専攻の話をとりあえず私にわかるように説明してくださる?」


 いいの? とばかりにラドテイルは私の方を目をぱちくりさせながら見た。

 思う存分に、という思いを込めて、私はうなずいた。

 まあ後は、しばらく彼の独演だ。 

 ……正直、二人とも唖然としていたが。

 それでもスノウリーはやはり建築会社の令嬢だ。


「なかなか興味深いことをやっていらしたのですね」


 そうなの? とマーシュは私に問いかける。

 私はうなずく。

 確か未来の記憶の中に、支線の起点に百貨店はなかった。

 だがこれからそれができたなら、それはそれで楽しいのかもしれない。

 そして終点にも何か作ることができたなら……


「それではお父様にお会いできるように一応私から申し上げます」

「あ、それではすみませんスノウリー嬢」


 ラドテイルは鞄から大きな書類入れ封筒を取りだした。


「これが僕の今言った話をまとめたものです。少しでも侯爵様に見ていただければありがたいです」


 受け取ったスノウリーが驚く程の厚みとずっしりとした重さ。


「それではこれはお預かりします。ところでリシャ、貴女達の結婚式は?」

「うん、お祝いはうちでやるの。うちの兄貴達の時のこと覚えてる?」


 一番近い、五兄の結婚祝いの席にはこの二人も呼んでいた。


「ええ、何というか」


 二人とも顔を見合わせて苦笑した。

 先日の謝恩会ではないが、立食形式で、途中から小楽団の演奏を入れたと思ったら、皆で夜まで踊り明かすという。


「それで三週間程、北西へ行く話が出ているんだけど…… スノウとマーシュも来ない?」

 え、と二人は揃って声を上げた。

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