13 自分の結婚相手のことが出てきた 

 忘れてた!

 確かにそうだった。

 第二の卒業の半年前、きょうだい達から、「どんな人と結婚したい?」と問われていたのだ。

 人数が多く顔も広いので、できるだけ妹の希望に合って、それでいて家的にも問題ない相手を! と思ったのだろう。

 そして私としては。


「帝大出がいいな」


とぽろっと漏らしていた。

 まあいずれ結婚はしないとな、思っていた。

 この家に生まれ育っていると、相当飛び抜けた能力とか気質がない限り、結婚したくない、とか子供が欲しくない、という発想にはならない。

 私は自分がごくごく凡庸な「裕福な商家の娘」という意識だったので、あっさりその時感じていた希望を出した。

 あとは私の普段の趣味嗜好を知っていれば、そうそう合わない人を紹介しては来ないだろう、という信頼もある。

 常に私達は好みのタイプとかあからさまに皆で言い合っていたからだ。

 マーシュほどの面食いでもないし、スノウリーほどに男に疑問を持っている訳でもない。

 うちの連中は仕事でくたくたになればだらしない姿も見せてくるので、まあ男という生き物はこんなものだろうなあ、と知ってもいた。

 たぶん知らないのは、閨でどうなるか、くらいだったろう。

 その辺りもある程度はお母様達や姉や義姉という女性陣が居れば耳年増にもなるというものだ。


「お? 帝大卒の奴が誰かいたのか?」

「ああ、俺の第一中等の時の友人の友人で、なかなか面白い奴が卒業間近なんだけど、今一つ勤め先が見つからないって言っててな」

「何、それでうちに勤めさせるってことか?」

「いやいや、どっちかというと、都市計画とかそういう奴の学問をやってたから、本当は官僚になりたかったらしい」

「っていうと、試験には落ちたの?」

きょうだい達が一気にその相手に対し、口々に話し出す。

「それが、ちょうどその時期流行風邪にかかっていて、試験を受けられなかったんだと!」

「あらまあ!」

「じゃあどうしたものかしら」

「そこでエリシャ」


 言い出した兄の一人、サイシャンドがぐい、と私に迫ってきた。


「はい?」

「お前今度会ってみて、いいなと思ったら話進めようぜ」

「早っ! ちなみに何って名の人?」

「ミハーレン。ラドテイル・ミハーレンっていう男爵位だけ持ってる奴だよ」


 あ、そこでやっぱり来ましたか。

 いやもう実によく知っている、私の記憶の中の夫が。

 だけど今一つ記憶と違うのは。


「サイ兄様、本当にその人、都市計画とかそういうことをやってたの?」

「ああ。こないだ俺、会ってきたんだから間違いない」


 都市計画。

 果たしてあのひとはそんなことをやっていたんだろうか。

 私の記憶の中のラドテイルは、紹介されたスノウリーのお父様の建築会社で、確か帳簿とにらめっこする仕事をしていたと思うのだが。



「……こっちにします? お嬢様」


 はっ、とローリヤの声で我に戻った。


「え、何?」

「明日の顔合わせのことですよ。どの服と帽子になさいますか?」

「あ~」


 あれからあれよあれよとばかりに話が進んで、ラドテイル・ミハーレンとの顔合わせを帝都指折りの人気喫茶室「123」ですることになった。


「俺はちょっとその日行けないけど、時間と場所とお前の写真は渡してあるから!」


というサイシャンド兄の紹介するにしては適当さに呆れつつも、まあ会ってみないとな、と。


「服ねえ」


 彼はどういうのが好きだったろう?

 今一つ未来の記憶の中では思い出しにくい。

 と言うのも、その中での私が果たして彼を愛していたのか、というのもなかなかよくわからないのだ。

 いや、情は確実にあった。

 だが、この人が浮気しては嫌だな、とか、この人どういう仕事しているのかな、とかの感情――つまりは興味が薄かったような気がする。

 もしあの記憶の中の彼がやはり都市計画とかを専門にやっていたなら、マドリガヤ侯爵の持つ会社での仕事は向いていたのだろうか?

 今になってみればそう思う。

 よし。


「ローリヤが決めて。形だけは最近の楽な感じで」

「え、いいんですか?」

「私に似合う色って、結局は私にはわからないじゃない」


 ちょっとその辺りの方向を変えてみようかな、と私は思った。

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