11 家族にだけ押しが弱いスノウリー

「何とか話つけてきた~」


 待たせていた馬車でそのまま私は再びマドリガヤ邸へと戻って報告した。

 マーシュリアもスノウリーも今や今やと待っていたみたいだ。

 とはいえ、優雅に相変わらずお茶の真っ最中だったのだが。

 マーシュがすぐに立ち上がって私のところへ来たので、スノウリーが二人きりで実に楽しそうだったのが、地味にイラッときたのは内緒だ。


「お父様、怒ってらした?」

「ううん、怒ってなかった。ただマーシュももっと話をした方がよかったよ。メイドにでも」

「そう…… そうだったのかしら」

「だってお母様がいないのだったら、結婚のことを知るには、身近な女の人に聞くのが一番でしょ? 月のものが初めてきた時とかに」

「ただもう、その時は何が何だかだったし……」

「その時のメイドが、せめて上の人に相談して、お父様に伝えてくれればよかったんでしょうけどね」

「え、それも……」


 やっぱり性格というものは一朝一夕では変えられないものだ、と私達は痛感した。

 そして伯爵家からは、ザンフォート氏のことを調べるまではそちらにお願いしたい、という手紙ももらってきたのでスノウリーに見せた。


「これはお継母様に見せてお願いしておくわ」

「そうね。スノウリーのことも心配しているだろうから、貴女も色々相談とかお願いとかした方がいいわよ」

「それはそれで……」


 こっちもか、と私は頭を抱えたくなった。


「スノウリーは今のお継母様、嫌いなの?」

「そんなことないわよ。むしろ、なさぬ仲の私にずいぶん気をつかっていると思うわ。ただそれでも甘えるのは何か違う気がして……」

「じゃあ甘えなくてもいいけど、お願いできることはちょっと自分で過ぎる、と思うくらいした方がいいわよ」

「え、だってそこまで必要はないし」

「心配されすぎると、下手な縁談をどんどん持ってこられるわよ」

「どうして? そこまでする必要はないでしょうに」

「だから! 夫人が貴女は敬愛する奥様のお嬢様ってことで気を遣ってるの丸わかりなんだって! 貴女の亡くなったお母様が、これ以上の子供は作れないからって後妻にお願いしたんでしょ? それで男爵令嬢だった人が侯爵夫人にまでなった。これって世間から見たら出世じゃないの」

「でももしそれが、お継母様にとっては望まないことだったらどうするの?」

「スノウリー、貴女頭いいのに時々馬鹿よね」


 私はため息をついた。


「スノウリーが馬鹿ってことはないと思うんだけど……」


 マーシュは不思議そうに私を眺める。


「だってスノウリーはお継母様のことを考えているつもりだろうけど、そもそも向こうが本当にどう考えているのか聞いたことないでしょうに」

「それは…… 聞きづらいじゃないの」

「だったらそれ、マーシュと同じじゃない」

「え」


 それはさすがにスノウリーにとっても胸に刺さるものがあったのだろう。

 いや、私だって鈍感ですよ。

 ただ私はこの時代から、あの時代を通り抜けた記憶の中で、「言うは一時の恥、言わぬは末代の恥」を実感したんだから。

 ちゃんと話しあっておくとか、連絡手段を何とかしておくとか、そういうことを小まめにしておけば起きなかった不幸ってのがあったからなんだって。


「だからスノウリー、もし結婚とかが嫌だとか、もっと勉強したいとか、跡取りは自分でなくてフワルカがいいとか、色々思うことがあるならちゃんとご両親に言わないと駄目だって」

「だけどお父様はそもそも私に婿を取って継がす気で第二に入れたのよ」

「入れてから五年も経ってるのよ。この総代が」


 そう。スノウリーは私達の学年の首席、総代だった。

 作法だの社交だのというものも好きではなかったが、総合成績では何だかんだで一番。

 そして最高学年になった時の、自治会の総代。


「あれはみんなが私をはめたんでしょ?」

「貴女以上の人がいなかったんだもの。それで私達まで巻き込んだ人が何言ってるの」

「そ、それは……」


 スノウリーは先代の総代に抜擢された時、条件として私達二人を自治会幹部に入れることで請け負ったのだ。


「私の勉強が遅れる! って言っても教えるから! の一点張りで押し通したのは誰?」

「……私です」

「だから何でその押しの強さを家族にも向けないものなの?」


 むむむ、とスノウリーは押し黙った。

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