5 結婚式をすっぽかす説得をしよう
けど説得って具体的に何を?
私はそこで、はたと考えが止まってしまった。
いや、今の私だったら、どこがマーシュにとって今度の結婚が不幸って分かっているけど……
まさか「未来の記憶がある」とか「予知夢を見たの」なんて言って信じてもらえるはずはない。
しかもマーシュはともかく、スノウリーは第二にはまれな秀才なのだ。
たとえ20代後半の私の頭でも、回転が違うってものだし!
そんなことをつらつらと考えていると、そのスノウリーが不思議そうに、
「どうしたのリシャ、あなたにしては珍しい」
そう言いだした。
「うーん」
「もしかして、結婚のことをそちらのお姉様とかから具体的に聞いたの?」
はっ!
そうだ、それだ。
「そうなの。そうなのよ。ねえマーシュ、結婚したその夜に、どういうことをする、というか、されるってこと、考えたことがある?」
「……」
マーシュリアは黙ってうつむき。
私とスノウリーは顔を見合わせた。
ああこれは知らないんだ、と私達は確信してしまった。
「ああそうだったわ…… それでもうちはフワルカのお母様が教えてくだすったからいいんだけど……」
「マーシュの家って、そういう人が」
小さく彼女はうなずく。
それは…… まずい。
とてもまずい。
「あのね」
スノウリーはマーシュの耳に小さく何やら囁く。
すると聞きながら次第にマーシュの表情が変わっていった。
「い、いやよ」
顔色もだが、こんなに焦った表情のマーシュは見たことがない。
それだけでない。
両手で自分を抱きしめ、震えている。
「私、あの人とそんなことしたくない」
「会ったことはあるのね?」
スノウリーは訊ねた。
「あるわ」
「嫌なのね?」
「お父様がおっしゃるなら、妻としてその家庭を持つというのも構わないと思ったけど、そういうことをあの人とするのが家庭を持つ、ということなら、私……嫌!」
今まで見たこともない程に、マーシュリアははっきりそう言った。
「だって…… だってあの人、私のことを上から下まで舐め回すように見てから自己紹介したんだけど、その後すぐに腕を取って散歩に連れ出そうとしたのよ。私もう、ぞっとして、できるだけさりげなく腕が痛むので、とか言ったんだけど、その時の不服そうな顔!」
ぶるっと震えるその姿は、心底嫌そうなもの。
「それだけでも嫌だったのに、その上…… なんて、信じられない。結婚ってそういうものなの……」
「これはもう、小父様が悪いわ」
スノウリーはマーシュの背を撫でてなだめながら、はっきりとそう言った。
「無論マーシュがはっきり否定しなかったのも良くないけど、そういう女の色んなことを教えてくれる人をちゃんと周囲に置かなかったというのは」
そうよね、とスノウリーは私に同意をうながした。
「そうよ、そうに決まってる」
「だからマーシュ、とりあえずこの謝恩会を途中で抜け出して、うちに来て!」
「スノウの家に?」
「そうよ。うちだったら、小父様だってそうそう乗り込んでどうの、とかできないでしょう?」
「でも、式のお支度とか全部できてしまってるのよ? 私が行くだけになってしまって」
「でもそこで一晩過ごしてしまったら、その後もし貴女がどうしても嫌って言って別れることを認めてもらっても、貴女が傷物ってことにされてしまうのよ」
「縁談がダメになってもそう言うじゃない」
「いいえ、そこは凄く大事! するとしないでは大違い!」
スノウリーはマーシュの両肩をがっちりと掴んでそう言った。
そこまで真っ直ぐ言われると、さすがにマーシュは「そ、そうかしら」と揺れ出した。
そう、彼女は誰かの意見に左右されやすい。
自分というものがあまり無いと言ってもいい。
だからこそ、柔らかな物腰、笑顔、声、そう言ったものと穏やかで自己主張しないことから、確実に学校外に出ると異性の目を惹きやすいのだが……
悲しいかな、当人にその自覚が無い!
だからこそ、私とスノウリーは休みの時期には下手な虫がつかないようにせっせと遊びに連れ出したものだった。
今度も半ば強制的に連れ出さないと、駄目らしい。
「それじゃ決まりね。会が半分まで終わったら抜け出しましょ!」
後で大目玉食らうことは覚悟の上!
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