4 親友達の家族というもの

 いやもうこれが、たとえば両親とか姉妹とかが悪いとかだったら割と話は簡単よね。

 私だって「自立しよう!」っていうことも今なら考えたり言うこともできる。

 でもこの時の二人にそれはさすがに辛いと思うのだ。


 まずこのマーシュリア。

 お父様のタリパ伯爵は昔気質のまじめな方なんだ、これが!

 正直、今マーシュがコルセットのドレスを着ているのも、そのあたりにある。

 悪くはないのよ!

 似合ってはいるのよ!

 ただ冒険しないんだ!

 お家がそもそも、昔は決して多くなかった「書物」を守ってきたところ。

 それが時代が変わるにつれて、大量に刷られる書物を広めるべく販売もするようになったのだ。

 そのための知識をきちんとおさめて次に繋いでいくというのは、まあ、浮ついた人がするもんではない。

 今のタリパ伯もそう。

 そしてこれはまあ、性格なのだと思うけど、人情にあつい。

 一度愛した女性を忘れることができない。

 ということで、マーシュを産んで亡くなってしまったお母様の後添いをもらうこともない。

 これはもう、伯爵なんて地位としては珍しいことで、うちの学校では羨ましいタイプとして噂されていたものだ。

 だってそう。

 もっと多くの子供を遺すために後妻を迎えろ、というのが普通の貴族なんだけど。

「マーシュのお父様はたった一人を大切にしたのね!」

 とまあ。


 それは実際スノウリーからして「羨ましい」と言ったわけだ。

 彼女の家は更に上の侯爵家なのだから、まあ更にそのまま独り身を通すというのは難しかったのだろうけど……

 ただ要するに、スノウリーのお母様が亡くなる前に、既に妹が生まれていた、というのが釈然としないのだと。

 というのも、マドリガヤ侯爵の最初の夫人、スノウリーのお母様というのは元々あまり身体の強い方ではなかった。

 だから周囲は無理に子供は産まず、側室を迎えてそちらに子供を、とずいぶん薦めたものらしい。

 だけどそこをがんとして譲らず、スノウリーを産んだというわけだ。

けどそれで身体が更に悪くなって!

 当然よね!

 そこで彼女は自分つきの侍女をしている男爵令嬢に側室になって、と頼んだんだと!

 またこの人が義理堅い人で、当初は「お嬢様の後釜に座るようで嫌です!」ときっぱり断ったらしいのだ。

 それでも「他の女にやるくらいなら貴女が」ということで熱心に夫と当人に頼んだ結果、妹のフウルカ嬢が生まれたという次第。

 それでスノウリーが十歳になる頃に亡くなったんだけど……


「女は損よね…… 夫に女をすすめることまで考えなくてはならないなんて……」


とか言い残したという!

 スノウリーのお母様! そこは違う!

 おかげでスノウリーときたら、すっかり「私は一生結婚なんてしないわ」と言い切っているのよ!

 頭が良くて色々考え込む子だから、もうお母様の言ったことで色々考えすぎてしまって!

 確かにそう思っていたのかもしれないけど、それは娘に言い残すことじゃないって!


 私はまあ、そもそもうちの子爵家自体が大家族だし、元々お父様の家系が北西辺境地の出ということで、色んなことに大らかってことは、確かにある。

 正直、うちの兄弟姉妹の中には、母親が違うのも結構ある。

 というか、両親も違うというのも、ある。

 要するにこのあたりは家族というものの考え方が違うんでしょうね。

たくさんお父様の元に集まった家族が一丸となって、我が家の事業をもり立てていこう、っていうのがあるわけだ。

 でないと、子爵家で、何の領地も持っていない我が家が、帝都で指折りの青果系問屋になれる訳がないでしょう!

 三代前のご先祖が、この帝都の誰でも挑戦できるってところに賭けて僅かな資本から始めたものなのだから。

 私はそういうご先祖と家族を誇りに思っているのよ。


 ……と、話がずれすぎた。

 要するに、みんないい人なのよ。

 いい人だけど、だからと言って、いい結果をもたらす訳ではないってこと!

 だからどうマーシュを説得すればいいんだか……

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