第2話 区新人戦

 9月末、区の新人戦が開催された。参加は12校。3校ずつの予選リーグ戦を行い、勝ち抜いた4校で決勝トーナメントを行う。上位3校が県大会に進出できる。

 予選リーグ戦が始まった。初戦の相手はK中。

 先鋒の平田、次鋒の横山はどちらも引き分け。初戦で緊張したのだろう。中堅は千佳。いつものように自分からは打っていかない。だが、相手が面を打ってきたところで出ばな面が決まり、1本リードした。その後は、打つこともなく、相手の攻撃をかわしている。副将は長身の篠田。善戦するもののぬき胴を決められた。大将戦になってしまった。美香の相手は長身の佐々木。上背にまかせて、どんどん打ってくる。そこで、相手が疲れを見せてきたところで、出ばな小手を決めた。まるで千佳の剣のぱくりだ。2対1で辛勝。初戦から疲れる試合をしてしまった。

 第2戦の相手はZ中。昨年区大会で3位に入ったチームだが、メンバーは変わっているので、やってみないとわからない。

 先鋒の平田は面を決められた。小柄なので、どうしても面が打たれやすい。次鋒の横山も面と小手を決められた。これで0ー2と圧倒的不利となった。だが、中堅の千佳は危なげない。開始早々に小手すりあげ面を決めて、リードした。しかし、その後は自分から打とうとしない。すると、審判が合議をかけて何か相談をしている。合議が終わると主審が千佳に何やら声をかけている。すると、次の技で千佳が珍しく抜き胴を決めた。

 控え席にもどってきて、千佳に

「主審になんて言われたの?」

「うん、積極的に打ちなさいだって。消極的だと反則をとるって」

「それ聞いたことある。千佳は攻めているのにね」

「でもないわ。剣道は1本勝負だと思っているから」

 それで、ああいう剣風なんだと妙に納得してしまった。

 副将の篠田は引き分けに持ち込んだ。これで1-2。美香は勝たないといけない。相手は長身。美香より10cmもの差がある。開始早々、飛び込み面を決められた。すばやい動きだ。しかし、ここで相手は気を抜いたのか動きが止まった、いわゆる待ち剣状態になったのだ。そこに美香が捨て身の小手を打つ。白旗が3本上がる。そこで相手は正気を失ったのか、「勝負!」という主審の声とともに、またもや飛び込み面を打ってきた。これは美香も察知できていた。相手が動くと同時に体を右にずらし、抜き胴を決めた。わずか20秒の試合となった。これで2ー2。本数も4本ずつで代表決定戦となった。監督の山村は千佳を指名した。相手は大将が出てきた。代表決定戦は1本勝負である。

 相手は積極的に打ってこなかった。千佳の応じ技を警戒しているからだ。1分間ほどにらみあったままいると、「合議」がかかり、審判団が相談している。その後、二人に反則が宣告された。2回宣告されると1本とられることになる。それで、相手が動きを示した。面とみせかけて小手を打ってきたのだ。裏をかいて打ってきたのだろう。しかし、千佳は動ずることなく、小手を抜き、大きくふりかぶって面を打った。ものの見事に決まった。長身の相手は自分が面を打たれるとは思っていなかったのだろう。あいさつが終わっても、なかなか面を外そうとしなかった。涙を流しているようだった。

 これで決勝トーナメント進出。相手は優勝候補のD学院である。本当は決勝であたりたかった。昼食もそこそこに、D学院の試合に備えて作戦会議を行った。しかし、何の意味もなかった。千佳と美香は渡部姉妹とあたり、引き分けたものの後の3人はコテンパンにやられた。美香とあたった渡部姉は勝負が決まったので本気をだしていないのがありありだった。

 続いて、3位決定戦。相手はA中。なんと5-0で勝つことができた。準決勝のうっぷんをはらしたのかもしれない。これで県大会進出である。まずは最低限の目標を達成することができた。ちなみに決勝はD学院が5-0で圧勝だった。D学院の大きな壁を感じる大会となった。

 翌日は個人戦である。各中学校から2名ずつ、24名で競われる。3名ずつの予選リーグを行い、勝ちあがった8名で決勝トーナメントを行う。個人戦も上位3名が県大会に進出できる。

 美香も千佳も予選リーグは順調に勝ち抜いた。決勝トーナメント1回戦。美香はまたもや渡部姉と対戦である。団体戦の時は本気で戦ってもらえなかった。今度は本気で相手をしてもらったらしく、あっけなく面を2本とられて終わってしまった。千佳は準決勝にすすみ、そこで渡部妹と対戦した。団体戦では引き分けている。ここでもなかなか勝負はつかない。延長戦にはいった。それも1回だけでなく、3回目まで突入したのである。すでに7分を経過している。千佳は応じ技が決まらず、いらだち始めている。いつもと違う。試合慣れをしていない千佳にとっては初体験なのだろう。

いつものじわじわと詰める間合いが、その時だけは少し大きめになった。そこに渡部妹の小手が決まった。一瞬の動きであった。通常ならば千佳の小手すりあげ面が決まるところだが、延長で集中力がきれていたのかもしれない。控え席にもどってきた千佳はくやしさありありだった。だが、すぐに3位決定戦がある。

 千佳の3位決定戦の相手はZ中の大将だ。団体戦で代表決定戦を行った相手だ。相手は警戒している。にらみ合いが続く。延長戦に入る。ここでもにらみ合いが続いているので、またもや合議かと思いきや、千佳が動いた。大きく左肩に竹刀をふりかぶって、おもいきって面を打っていく。長身の相手は、まさか千佳が自分から打ってくるとは思っていなかったのだろう。それも面打ちである。のけぞるしか手がなかった。しかし、千佳の剣先が相手の頭上にあたる。白旗が3本上がった。千佳の勝利である。そして控え席にもどってきた千佳に美香が話しかける。

「おめでとう。それにしても意外な技を出したね。かつぎ面だなんて」

 すると、千佳が

「めでたくないわ。渡部姉妹に負けてしまったからね。県大会で雪辱しないと・・」

 と応える。そこに顧問の山村がやってきた。

「初の大会参加で、様子がわかっただけでもいいじゃないか。審判団は千佳のことほめていたよ。鋭い打ちをするって。ただ、気合いがでていないのが惜しいってさ。気剣体一致が原則だからな。千佳は気合いが足りないって・・」

 そう言われて、千佳は

「気合いで人は斬れません。一撃で倒すことがサムライの真髄です」

 と返す。たしかにそうだが、今はサムライの時代ではない。時代錯誤としか言いようがない。

 決勝戦は渡部姉の勝利となった。翌日の新聞には渡部姉妹の決勝戦の写真がのり、千佳の分は試合結果しかでていなかった。

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