07・ゴールキーパー

 私はサッカーをやっておりましたが、私の世代には少年サッカーのときからゴールキーパーがいませんでした。

 なので、一個下からキーパーが呼ばれていました。


 進学すると、世の中はJリーグブームが巻き起こっていたので、サッカー部には50人以上入ってきます。

 それまで、サッカー少年団に入っていたのは9人。

 スタメンすら組めない(当時の少年サッカーは11人制)のに、『今までおまえらどこに居ったんや!』と突っ込みたくもなります。


 そんな中でも、ゴールキーパー志望者は一人しかいませんでした。

 

 Yくん


 線が細く、150cmあるかないかくらいの華奢な子です。


 でも、

「ようやくキーパーが来てくれた!」

 との思いが強かったんでしょうね。

 ひとまず人心地が付きました。


 が、それが最初の練習試合で終わってしまう……


 通常、部活では1年生の試合はあんまり組んでくれません。

 3年生の試合の合間に、少しだけやらせてくれる。そんな感じです。


 私は少年サッカーではセンターハーフをしておりましたが、進学すると上の学年の試合にディフェンスですぐに使われるようになりました。

 なので、自分の年代の試合でもセンターバックにコンバートされたのです。


 1年生の練習試合が始まると、敵がシュートを打ってきたのですね。

 キーパーにとってはとてもイージーなシュートです。

 

 しかし、それが入る! 入ってしまう! 入りまくる! 


 うちのキーパーのYくんは、『跳ばない』のです。


 敵さんは『枠に行けば入るぞ!』と本当に言いました。

 センターバックの私はもう要りません。

 敵は、私の守備範囲に入る前に、シュートを打ってくるのです。


 なんというか、

「もう、サッカーじゃねえな」

 そんな感じでした。


 試合が終わると、20対0くらいで負けました。

 Yくんに、

「なんで跳ばんの!?」

 と詰問したら、返って来た答えは、


『服が汚れるから』


 おまえ、もうサッカー辞めろ……

 Yくんはそれから部内の練習試合でも使われることはなくなりました。




 次に、私の親友でもあるTがキーパーに立候補しました。

 Tは人間的には良い奴です。

 チームメートが早くに亡くなって、葬式で久しぶりに会ったら、整形をしたかのように極道っぽくなっておりましたが……

 

 まあそのT。

 背はとても高いのですが、基本的な運動神経がありません。

 高いボールをジャンプしてキャッチしても、着地すると同時にポロっと落とす。

 センターバックの私は、もう自分が抜かれたらTが止めてくれることは考えられない。そんなキーパーでした。


 私はトレセンにチームでひとりだけ行っていたのですが(本当に寂しくて、帰りたかった)、顧問の教師が『うちのゴールキーパーは本当に酷くて……』と愚痴っているのを聴いてしまったのです。




 そして最後にEがキーパーに立候補します。

 ようやくまともなキーパーの登場です。

 Eは上の年代でも、試合に出るという確かな実力を持ったキーパーでした。






 私の世代は、玉野光南高校と作陽高校がしのぎを削っていた時代でした。

 県内の決勝戦はだいたいそれでした。

 ですが、私が高校3年生になったとき、私が住んでいる近くの高校が選手権の県決勝まで進んだのですね。

 

 そのときのスタメンは、県トレセンの倉敷以西のメンバーが勢ぞろいしていたような感じだったのです。

 なんか、違う高校に進学した私は置いてけぼりを喰らったような感覚を受けました。


 そのときのゴールキーパーも、私が小学生の頃から一緒に地区トレセンでプレーしていた彼でした。

 彼は将来を嘱望されていたゴールキーパー。

 県トレセンでも正ゴールキーパーで、中学に進学すると即3年生を差し置いてゴールマウスの前に構えるようになるのです。

 ですが、彼は小学生で身長が162cmあったのですが、高校3年生になっても162cmくらいでした。


『キーパーは小さいですが、監督は絶対の信頼を置いています!』

 決勝をテレビ観戦していると、そんな解説が聞こえてきました。


 キーパーは他のポジションと違い、互換性がまったくありません。

 彼が180cmあれば、Jリーガーになっていたかもなあ、などと思うのです。

 実際、地区トレセンでセンターバックを一緒にやっていた子は180cmを越えて、JFLでプレーしていましたし。




 体格でそのスポーツを諦めなければならないって、本当に悔しいですよね。

 私の場合は怪我でしたが、それでもやっぱり悔やみ切れない……

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