第3章 2024~

01・久保建英

『久保くん』

 本人が「もう『くん』は辞めてください」と言っているので、『くんさん』と呼ばれている彼。


 バルセロナのユースで育ち、外国籍のユース選手は公式戦に出られないとなると日本に帰国。

 そこからJリーグを経由し、レアル・マドリーへと移籍。

 そこからたらい回しにされ、今、レアル・ソシエダで華開いている。


 私は、個人的に彼を『怪我をしなかった小野伸二』だと勝手に思っている節がある。


 昨年、引退なされた小野伸二さんは、マジカルなトラップと、スキルフルなパス、イーグル・アイとでも言い換えられる広い視野を持っていた。


 私は、久保建英選手もテクニックでは小野さんに引けを取らないと思う。

 それどころか、明らかにドリブルでのチャンスメイクは上だとも。


 ユース時代から騒がれた選手が大成するというのは実はあまり少ない。

 まあ、超大物だったら話は別だ。

 だったら、野球のドラフト1位はなんなの? ということにもなる。


 久保選手は、バルセロナの下部組織出身ということで、アマチュア時代から注目されていた。

 だが、当初はJリーグでもその実力を疑問視されていた。

 けれども、18歳になる頃にはレアル・マドリーとバルセロナが争奪戦をする選手へと化していた。


 マドリーとバルサは、互いに足を引っ張りあい、欲しくない選手でも相手が手を出していると知ると、横入りして移籍金を釣り上げるだけ釣りあげてその後手を引き、相手に金銭的ダメージを与えることでも知られている。

 だから当初は、『その一部だろう。結局はバルセロナに戻るだろう』と言われていた。

 しかし、マドリーは実際に彼を獲得した。

 いかに本場で評価されているかがわかる。


 彼のプレーは観ていて楽しい。

 ロナウジーニョまでとは言わないが、日本屈指のファンタジスタであることは確かだ。


 中田英寿、中村俊輔、小野伸二。

 彼らは皆、パサーだった。

 みんな、「もっとドリブルを練習していれば良かった」と言っている。


 そこで久保選手!

 自分が見てきた中で、ここまでドリブルで違いを作れる日本人は、前園真聖さん以来だ。

 スピードの伊東純也選手、緩急の三笘薫選手、そして技巧的な久保選手。

 ここまでのドリブルの達人が日本代表にそろったのは初めてだろう。


 師匠筋と言われるダビド・シルバそっくりだと言われている。

 私はシルバをじっくり見たことが、彼のラスト・シーズンくらいしかないが、本当に似ていると思った。

 体型や髪型だけではない。

 左足でのボールキープ、ボールコントロール、チャンスメイク、そしてキックの仕方まで。

(ちなみにダビド・シルバは、お母さんが韓国系と言われていて、韓国では非常に人気があった。実はそれは日系だったのだが、そのときの韓国人の手のひら返し様は本当にアレだった……)


 2022年のワールドカップ・ドイツ戦。

 彼は簡単にドイツの選手の片手で引き剥がされ、フィジカルの脆さを露呈した。

 しかしそこからの成長度が半端ない。

 スペインはラ・リーガでベスト11に入るくらいまで、そしてレアル・マドリー復帰が囁かれるほどである。




 こう思って、彼を見て欲しい。

『彼は、小野伸二が怪我をしなかったVer.なのだ』と。

『日本の至宝と言われた男が、選手生命を脅かされることなく、現役を今、楽しんでいるのだ』と。


 そう思って観れば、彼を見る目がまた変わってくる。

 

 前田俊介、玉乃淳、宇佐美貴史、柿谷曜一朗。

 逸材と呼ばれながらも、その実力を100%発揮できなかった元天才。


 それが結実しているのが、久保建英。


 そう思えば、夜中にわざわざ一度起きて、彼の試合をフル観戦するのにも、また違ったモチベーションが湧いてくるはずだ。

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