05・森保監督の限界

 世界のサッカーは進化し続けている。

 だが、日本は停滞してしまった。

 日本がアジアカップのグループリーグで負けたのは、1988年以来36年ぶり、そしてイラクに負けたのは1982年が最後だったらしい。

 日本代表は、『歴代最強』と言われながらも、実際のところ残した実績は『Jリーグ開幕後、最弱』であったことが結果からも伺える。


 どこにその責任を求めるかと言えば、やはり森保一監督になってしまう。


 確かに2022年は結果を残した。

 ボトムアップ型の志向が、世間にもてはやされた。


 だが、そこで止まってしまった。


 世界の強豪リーグで、選手主導のチームなどない。

 監督が志向する戦術で、今のサッカー界は成り立っている。

 もちろん、モチベーションを揚げるタイプの監督も居て、そういう人たちは優秀なアシスタント・コーチに戦術を任せている。


 代表チームには戦術はない、と言われていた。

 しかし、それにはもう『かつて』が付く。

 私が監督であれば、日本代表相手には中盤を省略して放り込め、と言うであろう。

 それくらい、素人でも単純な戦術は考えられる。


 森保監督は、戦略に長けている。

 これは間違いないことだ。

 大会を睨んでの選手選考。それまでのモチベーションの揚げ方。人心掌握。

 そういうものに長じている。


 そして、戦術で劣っている。

 試合内での変化にとてつもなく弱い。

 相手が戦術を変更してくると、それに対応できないのだ。


 2022年のワールドカップ。

 後半途中から三笘選手を出すという見事な戦術で結果を残した。

 だが、それを読まれたラウンド16でのクロアチア戦では、もう他のプランはなかった。


 今回のアジアカップでも、同じ戦術を使ったが、もう相手には有効な手段が確立されていた。

 イラン戦では、ゲームを作っていた久保選手と、前田大然選手を代えるというミスを犯した。

 代えるなら、堂安選手であったはずだ。

 そして、イエローカードを受けプレーが縮こまり、負傷していた板倉選手を残し続けた。

 本人が言う通り、監督のミスだ。

 というか、この試合を見ていた人は、それがミスであることに全員気付いていた。


 森保監督は、

『相手が動いたら、それに対応するために駒を残してていた』

『延長戦を見据えていた』

『オフェンスに交代枠を使いたかった。ディフェンスに枠を使いたくなかった』

 と述べていますが、だったらワールドカップでサイドバックの長友佑都選手をいつも交代させる戦術は何だったのでしょうか?

 

 ここまで酷い采配は、2002年・日韓ワールドカップのラウンド16・トルコ戦。

 トルシエが乱心して、選手を入れ替えたこと以来かもしれない。


 よりによって、監督がそれに気付いていなかったのだ。

 森保監督は、毎回メモをしているが、何を残しているのだろう?


 2019年のアジアカップで、準優勝。

 東京五輪のアジア予選で、グループリーグ敗退。

 メダルを期待された東京五輪本戦で4位。

 ベスト8を期待されたカタール・ワールドカップでベスト16。

 そして今回の敗退。

 ゴールキーパーの選考を誤り、ボトムアップ型の戦術の限界を守田選手に指摘され、人心掌握も上手くいっていないように思える。

 アジアで戦うには、選手の熱量やモチベーションも上がらないのであろう。

 ワールドカップならともかく、わざわざアジアカップを有料で見たいと思わないサポーターも今回は少なくなかったはずだ。


 歴史を描くときは、必ず後世の評価を待たなければならない、とよく言われる。

 当時を知る者の熱狂的・情熱的な判断では、冷静に客観的な評価を下せないからだ。

 2022年の日本代表は、ドイツとスペインを葬り去り、日本列島を燃え上がらせた。

 だが、それはグループリーグの話で、相も変わらず日本はワールドカップに参加してもう20年以上経つのに、決勝トーナメントで1勝を挙げたことは未だにないのだ。

 クルックルの熱い手の平返しで申し訳ないが、冷静に考えれば結局のところ、何ひとつノルマを成し遂げていないのが森保ジャパンの現状であったりする。




 しかし、それでも私は、森保監督を支持せざるを得ない。

 日本人の指揮官を希望する現在、彼以外に適当な人材が居ないのだ。

 

 実のところ、森保監督は元ヤンで、中学の卒業式には金髪に髪を脱色したり、他の学校との抗争にはトップとなって乗り込んでいくほどの人物であるらしい。

 これほど胆力のある日本人を、簡単に失ってはならないのだ。


 どこに日本が向かっているかという問題もある。

 コンセプトのことだ。

 長期期間を森保監督に任せた。

 8年スパンだろう。

 ミスもたまにある。

 それがアジアカップで出ただけだ。


 日本は前評判が高いときほど本大会で失敗するという、伝統が残っている。

 小野伸二さんを筆頭とした黄金世代が結実したであろう2006年。

 本田圭佑さんを主軸とした世代が円熟味を迎えた2014年。

 悉く失敗している。


 そういう意味で、2大会連続でベスト16に導いた森保監督の手腕は侮れないのだ。

 ドイツ、スペイン相手の2022年。だれが予選突破すると思っただろう。

 2026年に彼は修正してくるはずだ。


 今回のアジアカップ、鈴木彩艶ざいおん選手を抜擢し、批判を受けながらも心中した。

 頑固と言えばそれまでだが、森保監督には信念があったはずだ。


 逆を言えば、これでザイオン選手に見切りを付けたのなら、今回のアジアカップは何だったのかと言うことになる。

 公式戦を選手育成に使ってしまったのだ。

 もう引き返すことは出来ないのではないだろうか。


 良くも悪くも、森保体制2期目に入って日本はザイオン選手と毎熊晟矢選手以外、上澄みになる要素が今のところない。

 メンバー自体も2022年以来、あまり変わっていない。


 確かに、日本は上澄みになる要素がない。

 だが、他にもうひとつある。

 失敗を幾度も経験し、成長するはずの森保監督自身だ。


 いまさら、革新的な戦術を施行せよ、とまでは言えない。

 だが彼のそのクソ度胸に、戦術に長けたサポートがあれば、日本はベスト8を目指せるのではないだろうか。


 監督交代は簡単である。

 だが、森保監督以外に、日本人で適任がいない。

 外国人監督を誘致したくとも、適当な人材はいないし、いたとしても日本サッカー協会に彼らを雇える年俸30億円は支払えない。


 私は森保体制持続の消極的肯定派であると言える。

 というか、イビチャ・オシムさんのようなトップクラスの人材がよく日本に来てくれたものだとも思うのだ。 

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