02・日本代表の左サイド

 日本代表の左ウイングは三笘薫選手が一番手である。

 右ウイングの伊東純也選手とならんで、この両翼は日本代表の大きな武器だ。


 だが、三笘選手は怪我でコンディションを崩し、今大会はあまり出番がなかった。

 チームの大エースが、ワールドカップ本戦に出られない、ということも想定しなければならないということだ。


 ブラジル代表も、1986年当時絶対的なエースであった10番ジーコが国内リーグでの悪質なタックルで膝を痛めてしまった。

 そこで、ブラジルの監督が取った戦術は、試合残り15分ほどでジーコを途中投入するという戦術であった。

 ジーコはコンディションが悪い。

『だが、他の選手が疲弊して、スタミナが切れてきたときであれば、ジーコは戦える』という判断だ。


 この戦術は一定の効果を産みだした。

 途中出場したジーコのスルーパスからフォワードが倒され、ブラジルはPKを獲得する。

 それを蹴るのはジーコ。

 だが、まだ試合に入り切れてなかったのか。ジーコはそれを外してしまう。

 試合に途中から参加するというのは、とても難しいのだ。

 特にいつもスタメンで出場している選手にとっては。 




 さて、そんな三笘選手が不在の中。

 日本代表の左サイドは中村敬斗選手と、南野拓実選手が分け合った。


 中村選手のストロング・ポイントはその決定力だ。

 彼はいわゆるデル・ピエーロ・ゾーンからの巻いたシュートがとてつもなく上手い。

 彼をよく知っているネットの識者から言わせれば、中村選手はそれ以外には特筆すべき長所を持ち合わせていないとのことだった。

 考えてみれば、三笘選手の突破力と、中村選手のシュートの巧さ。

 それを兼ね備えていたのが、本家本元の元イタリア代表アレッサンドロ・デル・ピエーロだったのだろう。




 個人的に、南野選手のストロング・ポイントを私はよくわかっていない。

 とりあえず、前に置いておけば点をいつの間にか取っている、という具合だ。


 それでもわかるのは、彼はツートップのセカンド・ストライカー、または前方のトップ下、シャドー・ストライカーでしか輝かない選手だと言うことだ。

 それが左サイドで起用されるというのは、彼のストロング・ポイントを完全にスポイルすることである。


 伊藤洋輝選手は、三笘選手が前方に居ても、彼に縦パスを出さないことで定評がある。

 伊藤選手は個人的にパスやクロスがとても拙い印象がある。

 相手のクロスもバウンドさせることで今回、否定的な声が上がったが、彼はそもそもボールコントロールがアレだ。


 南野選手は左サイドで起用されても、中に絞っていく傾向があった。

 伊藤選手が左サイドバックとしてボールを持っても、南野選手はサイドを活用せず前方にはスペースだけがあった。

 南野選手はツートップの一部と化していたように思う。

 伊藤選手は、ボールを持っても、バックパスか横パスしか今回は選択肢がなかった。


 クロスが上がったり、コーナーキックのとき、ニアサイドのオフェンスの選手は出来るだけ相手のディフェンスを引き付けていかなければならない。

 ときには、頭でボールを後ろに逸らしたり、パワーで相手のバックスを巻き込んで、なぎ倒して味方が数的有利になる状況を作り出さなければならない。

 そういうのが、南野選手はできない。


 一方で、南野選手はゴール前でのポジショニングは非常に優れているとも私は感じる。

 まるで、往年のイタリア代表フォワード、フィリッポ・インザーギを連想させる。

 インザーギは、『オフサイドラインの申し子』と言われ、敵のオフサイドライン上でセンターバックと駆け引きを行い、そこから一瞬の加速とレスポンスで抜け出してゴールを決めるという選手であった。


 南野選手はオフサイドラインではなく、オフサイドラインよりやや後方で相手ディフェンス陣と駆け引きを行っているというのが私の印象である。


 だけれども、そういう選手はセンターで起用しなければ効果を発揮しない。

 

 香川真司選手もそうだった。

 彼は、マジカルなトラップと衝撃的なクイックネス、ワンタッチ・ツータッチで相手ディフェンス陣を混乱させ、世界屈指のアジリティを持ってゴールを陥れるというプレースタイルだった。

 それが、日本代表では本田圭佑選手がトップ下にいるため、左サイドアタッカーへと追いやられてしまった。

 香川選手を指導していたドルトムントのユルゲン・クロップ監督は、香川選手が左サイドで起用されていることを嘆いていた。

 そして、ドルトムントの選手たちは、『カガワはトップ下では世界一、二の存在である』と認識していた。

 それを証拠に、ドイツ・ブンデスリーガはここ10年以上、バイエルン・ミュンヘンが連覇をして、つまらないリーグだともいわれている。

 最初から2位を狙うリーグだとも。

 最後にバイエルン以外が優勝したのは、香川選手が全盛期を過ごしたドルトムント第一期時代だけである。

 これだけで、どれだけ香川真司選手がスペシャルな存在であるかがわかるはずだ。




 南野選手は、香川選手よりはその個の打開力は大幅に劣る。

 だけれども、彼の適性ポジションは左サイドではないはずだ。

 筆者はなぜ、森保監督がそこまで南野選手の左サイド起用に森保監督が拘るのかが理解出来ないのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る