作者あとがき・2022年の勝利の歌を忘れない
【自分語り】
私は、日本サッカーの冬の時代を生きてきた最後の世代でした。
サッカーを始めると、一学年で集まった人数は9人しかいませんでした。
今では、ジュニアサッカーは8人制ですが、当時は11人いないと試合すらもできません。
当然、下の学年から選手を借りてきて、人数合わせをしなければなりませんでした。
そんなときにJリーグが開幕するのです。
燃え上がるサッカー熱。
私は悔しくてたまりませんでした。
それまでは、マイナースポーツとして半分馬鹿にされていたのに、誰もが『サッカー、サッカー』
なぜかトレンディドラマでもサッカーを題材にしたものが作られたりします。
新しく50人近くサッカーをやろうと入って来るのです。
Jリーグ開幕以前のマイナースポーツだった時に集まらなかった人数が、4チーム分にもなったのです。
私は正直、腹立たしかった。
それまで一緒にやって来た仲間も、口には出さないけれども、思うところはあったのではないでしょうか。
最終的にレギュラーはほぼそれまでの少年サッカーの選手たちで埋め尽くされたし、50人いた人々も辞めて最終的には6人しか残らなかった。
サッカー界はある意味閉鎖的で、ある意味開放的でした。
一方で私は、チームを代表してひとりでトレセンにも行っていました。
私は人見知りの上、枕が変わると眠れない体質なので、とてもきつかった……
泊りがけの合宿なんか、ひとりでポツンと取り残されて、次の日は睡眠ゼロで運動するのです。
きついったらありゃしない!
さらに、私は狭いチームの中ではうまかったですが、県トレセンに行くと一番下手レベルです。
なんで、このレベルの選手がトレセン来るの? と言われるレベルです。
具体的にいうと、リフティング20回もできなかった。
県トレセンでは、リフティング何回できる? みたいな話題があると、「4000回」とか「日が暮れるまで」とかいう異次元の存在がゴロゴロしていました。
だけれども、自分でいうのもなんですが、私は身体能力が高くてそれで圧倒するというタイプでした。
小学生で100m13秒台、走高跳1m27cmでライオンズクラブから表彰されたこともあります。
ですが技術的に非常に拙く、リフティングしながら走ろうという練習で私だけがボールを何度も落とすのです。
それが悔しかった私は、夏休みを全部リフティングの練習に当てて、8月の終わりには500回できるようになったのです。
そういう中で、『ドーハの悲劇』が起こるのです。
衝撃だった。
日本中が悲しみにくれた。
今までサッカー界を支えてきた人たち、そしてにわかの人たち。
みんなが一体になった。
そこから、私はサッカーの力というものを感じるようになりました。
それから4年。1997年の岡野雅行さんのゴールデンゴールが決まったとき。
『ジョホールバルの歓喜』
サッカーが日本中を席巻して……
もはや言葉になりません。
それから、2002年の日韓ワールドカップがあって。
私自身は膝の半月板を損傷して、競技自体からは引退していましたが、仲間とやる草サッカーや、たまに帰省した時にお世話になったチームの臨時コーチとかしていました。
今回の2022年カタール・ワールドカップで『ドーハの悲劇』は『ドーハの奇跡』に上書きされました。
数十年、サッカーに関わってきて、『ドーハ』が日本代表にとって、『歓喜』の場所になるとは……
本当に感慨深い。
今では、にわかの人たちこそ、その競技を盛り上げるということがわかっているつもりです。
いろいろな競技が、オリンピックなんかで取り上げられて、スポーツニュースを賑やかせているのは、良いことです。
今回のワールドカップは、放映権の問題でアジア予選を見ることがなかった人も多かったと思います。
本大会も、アベマさんが放映権を取ってくれなかったら放送されなかったかもしれません。
この大会で日本が無様に敗退すれば、サッカーの種火が消えてしまうかもしれない、と思っていました。
ましてや相手は優勝経験国のドイツとスペイン。
日本がドイツに勝ったとき、奇跡と言うひとことで片付けて欲しくなかった。
私自身の積み上げてきたものも、ひとことで終わってしまうようで悲しかった。
でもコスタリカに負けたとき、「あれはやっぱり奇跡だったのだ」と手の平返しで思いました。
スペインに勝ったとき、「二度も続ければ奇跡ではない!」と非常に勇気づけられました。
『ドーハの悲劇』のときは、左サイドバックの都並敏史さん一人欠いただけで混乱に陥った日本代表が、今回では途中出場のジョーカーまで事欠かないのです。
感じ入ることがあるに決まっているではないですか!
海外サッカーを見始めて、ウン十年。
リオネル・メッシ選手はデビューの頃から知っている選手です。
そんな選手が、史上最高の選手になりました。
これまた感じ入ることがあります。
メッシがワールドカップを掲げたとき、私は鳥肌が立ちました。
そしてテレビの前からですが、拍手を送りました。
寝ていた家族はうざかったかもしれません。
ですが、それだけ心が打ち震えていたのです。
今では私はサッカー小説を書くだけの、いちファンに過ぎません。
でも、私みたいな存在でもいまだに小説を書くことでサッカーに携わり、それがだれかの目に留まり、プレーしてみようとか、観に行ってみようとか、サッカー好きになったとか言って頂ければこれほど嬉しいことはありません。
そういう人たちが大人になり、親になり、また子供がそれを受け継ぎ、サッカー界が盛り上がる。
素晴らしい循環です。
以前も書きましたが、日本サッカー協会、Jリーグ機構、キャプテン翼の高橋陽一先生、さわやかサッカー教室を営んでいたセルジオ越後さん、私たちにサッカーをボランティアで教えてくれた指導者の方々、そういう方々の地道な努力が、今回の日本代表の快進撃を支えたのだと思います。
私たちの世代で、リフティング4000回できる人も、日が暮れるまでできる人もひとりもプロになった人はいません。
日本代表というのは、そういう選ばれた中からさらに選抜された、文字通り日本を代表する存在です。
「サッカーで代表が勝ったからといって、別に君が優れているわけじゃないよね?」とか言う人もいますが、彼らは私たち日本人を代表しているのです。
そこに日本人の誇りを持っても私は『大丈夫』と言いたいのです。
だれかの『好き』や『努力』、『熱意』を素直に認めてあげてください。
私たちは必ず何かの消費者であり、生産者です。
サッカーというコンテンツもその中のひとつです。
それに携わるひとりとして、ただ単に日本中が熱狂することが嬉しい。
マニアであろうと、にわかであろうと、玄人であろうと、素人であろうと。
日本がワールドカップを掲げる日は、私が生きている間はないかもしれません。
でも、可能性は0ではない。
出場すらできなかったときに比べれば……
日本はここ30年で世界で一番レベルアップした国でしょう。
サッカーの冬の時代の最後の体験者として、日本サッカーがここまで来たことが、とても喜ばしいのです。
そして、一緒に喜びましょう。
このコラムは、今日で完結です。
ですが、また必ず4年後にお会いしましょう。
『だれかの熱意がだれかの心を動かす』
私の尊敬するなろうのスポーツ作家さんの言葉です。
私の熱が、少しでも伝われば、それはそれは嬉しいです。
それがまた誰かに伝わり、伝播する。そういう風になれば良いなあ……
というわけで最後に宣伝です。
※※※※※
『コウサッカー・シリーズ』
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【連載中】
『【サッカー大河ドラマ】タマシイを抱いてくれ ~168cmの日本人サッカー選手が駆け上がるバロンドールへの道・改~』
https://kakuyomu.jp/works/16817330649478561175
父が元日本代表、兄が現役A代表というサッカーの名門の家系に生まれた少年・向島大吾。彼は小学生6年生の時点で168cmある、フィジカルを頼みにした大型フォワードであった。
だが、高校2年になった今でも身長は相変わらず168cm。彼はただ周りと比べて早熟なだけだったのだ。
武器であったはずのアスリート能力は失われ、もはや彼には備わっていない。
劣った運動能力は逆に足を引っ張ることとなり、よくある凡百のサッカー人生を終えるかと思われた。
しかし、大吾はそのあと基礎技術を徹底的に磨き、テクニック特化の選手として、愛情・憎悪・さまざまな思惑が満ち溢れた魑魅魍魎が行き交うプロサッカー界の大海を泳ぎ生き抜いていくこととなる。
彼のプロ生活は、前人未踏のフリーキックでの4得点を達成することから始まる。
プロ・フットボーラーとしてキャリアを過ごしていく中、大吾は『ファンタジスタ』としてある特殊能力に目覚めていって……
※※※※※
【完結済】
『ダイジ。 ~『ドーハの悲劇』をやり直せ。逆行転生した俺は運命を変えるために、1993年のサッカー・アジア最終予選を改変する~』
https://kakuyomu.jp/works/16817330651622421088
西片大治は1993年10月28日生まれのプロ・サッカー選手。
『ドーハの悲劇』の日に早産児として生まれた彼は何かと不幸に縁のある男だった。
しかし、今度の不幸は飛び切りで、早産児として生まれた彼はもともと弱かった心臓のため2022年に彼は命を失った。
目を覚ましてみると、そこは1989年。
逆行転生した大治は、自らの不幸を救うべく『ドーハの悲劇』そのものを防ぐために、サッカー日本代表に入って、1993年のアジア最終予選を戦うことを誓うのだが……
※※※※※
では、また。
4年後に!
『ワールドカップの話をしていると、ワールドカップがやって来る』
イタリアではそういうらしいです。
絶対に。約束ですよ!
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