Nさんの話

「義母のことなんですけど、元々私たちの結婚に反対だったんですよね。反対の理由は多分【都会育ちのバツイチ女】が来るのが嫌というのが大きかったと思うんです。」


立派な門を構えた古き良き和風建築の家で、お茶の用意をテキパキこなしたり茶菓子を用意するNさんはそう切り出した。


「都会で育ったなら田舎ならではの慣習や環境は耐えられないとか、都会育ちのお嬢さんなら都会でもっと他に良い方との縁に恵まれる、とやんわり反対されたのですがそんな反対を押し切って結婚したんです。もうそんな状態から仲良くしましょうってそもそも無理な話じゃないですか。

結婚してから義実家に顔を出せば、私だけ日が経ちすぎて固くなった冷やご飯を必ず出されたんです。今時こんなことする人いるんだ、てその時は思いましたねぇ…。

義母の態度が軟化したのは娘が生まれてからだったと感じます。義母が娘を可愛がってくれるようになったんです。だからこそ、その今までの非礼を詫びることなく手のひらを返したような態度が許せなかったんです。」


それまで動き回ってたNさんが色んなことを終わらせたのかやっと目の前に座り、今までよりも少し声を抑えて


「…足腰が弱ってきた義母との同居が始まった年の冬、娘が胃腸炎になってしまって。仕事のある主人をホテルに隔離させたんですけど、数年経っても気持ちに折り合いがつかずにずっと許せなかった私は、これはチャンスと言わんばかりに義母の食事に娘の吐瀉物と市販の下剤を混ぜて食べさせた挙句、そのまま冬場の寒いトイレに一晩放置したんです。」


と話したので、こちらが思わず飲み干して空になったお茶に視線を落としてNさんの顔を見た。


「大丈夫です。そのお茶には何も入れてないですよ。…でも、義母のお供えには私がされたことと同じように黄色く変色したご飯を用意してます。」


と笑い飛ばすような極めて明るい口調で話していたが、そのNさんの口元だけ笑ったような顔にゾッとしてしまい、帰りのお見送りを辞退した。この時の相談の十数年後にNさんのご息女と対面することになる。

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