Lさんの話(下)

「結婚したんですよ……。」


カフェで話を聞いてほしい、とのご依頼で来たのだがそこには、化粧が落ちるのも構わず、人目も気にせず顔面をぐちゃぐちゃにしながら泣く女性、Lさんがいた。


「小さい時、というか物心つく前から私にはKという名前の2歳上の幼馴染がいたんです…。親同士が仲良くて、家も近かったので小さい時はそれこそ一緒に遊んだし、大きくなったら結婚しようねって約束したんですけど、Kは将来を約束した私がいるのに彼女作ったりして…。そんなKの彼女のことが許せずに色んなことをしました…。デートに着いて行ったり、ご飯を食べに行った先では、Kの嫌いな物を知らないまま彼女が注文しようとして、付き合い浅いなら仕方ないよね、私の方が長い付き合いだから何でも聞いてね、って言ったんです。そしたらその彼女は、Kくんもいつか食べられるようになるといいね、なんて言ってて幸せ全開の脳みそで正直気持ち悪かったです…。

それからも色んな邪魔をしたんですけど、Kと彼女が結婚するって親から聞いたんです…。私、どうしても許せなくて祝うフリして参列してKと私だけが写ったような写真をSNSにあげたらKとKの彼女とそれぞれの両親が喧嘩になって、Kは彼女と別れたんです。嫌いな物食べさせようとする彼女なんていらないでしょ、と思いながらもあまりの落ち込み具合にKの好きなおかずを持って行ったら突き返されてしまって…。」


目の前のLさんの行動力は見習いたいが、その行動力があるなら告白すればよかったのでは…と思ったが、それを言ってしまうと話を聞くプロとしては失格である。とにかく肯定だ。


「それからすれ違いが増えて、数年越しに彼女とやり直すことをKの行動を観察して知ったんです…。私、どうしてもKと結婚したいんです…!Kの新居の住所教えるので、Kの彼女と浮気してくれませんか…?私、30歳過ぎてるからこのままだと親が紹介した人と結婚することになっちゃうんです…。」


最後まで話すとより一層大きな声でわんわんと泣き出したので、Lさんが泣き止むまでパンケーキを食べながらそっと見守った。後日、住居侵入・ストーカー規制法・銃刀法違反の罪のオンパレードで逮捕されたLさんをテレビで見かけた。強い思い込みから、別の家に押しかけてしまったらしい。

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