Kさんの話 (上)

「今度、結婚するんですよ。」


ポツリ、と一言話したKさんの顔は結婚を前にした人の顔ではなかったように思う。おめでとうございます、と口先だけの祝福を述べたのがまずかったのだろうか。


「彼女との結婚は嬉しいんですけど、僕、実は数年前に一度結婚式を挙げて籍を入れないままお別れしたんです。というのも僕の幼馴染が関係してきて…。僕の幼馴染っていうのは家の近所に住んでる年下の女性で親同士が仲良くて。何歳下だったかなぁ……その人が、お祝いさせてほしいっていうので彼女に招待してもいいか聞いて参列してもらったんですけど、僕の結婚式の日に白いレース素材のワンピースを着てきたんです。その時点で親族も彼女も僕も引いたんです。

しかも、彼女と僕とその人で写った写真をSNSにあげたみたいなんですが、花嫁だけをトリミングして傍から見たら僕とその人の結婚式みたいな写真になっていて喧嘩になったんですよね。それからも新居に突撃されたりして彼女も病んでしまってお別れになったんですけど、離れる時に彼女から、今まで交際期間が短かったのってあの幼馴染が原因じゃないの?て言われて、その時初めて気づいたといいますか…本当に不甲斐なくて…。それから別の支社への異動のお願いを出したりして生活がやっと落ち着いたので…」


そう言って、今から旅行にでも行くのであろうかと勘違いするほど大きなバッグから一枚の紙を取り出して


「彼女とやり直すんです。今度、結婚するんですよ。」


親同士が仲良いのも面倒くさくて証人欄にサインしてほしいです、と渡された婚姻届にサインをして改めておめでとうございます、と祝福の言葉を述べるとKさんは笑顔で大きな駅の方へ向かって行った。Kさんの後ろを歩く白いワンピースの女性に少しドキッとしたが見間違いであることを願う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る