Iさんの話

「本命だった国立に落ちてしまって、滑り止めの私立の大学に通うことになったんですよ。俺は私立なんて行きたくなかったんですけど、両親からは浪人なんて世間体が悪い、私立でもいいから行けって怒られて、いやいや、子供の進みたい道を閉ざしていく両親の方が悪いやろ、とか内心思いつつ気乗りしなかったけど私立大学に入学したんですよね。」


椅子に踏ん反り返って座る、やや人を見下した態度の青年はきっとこちらの(公立の大学すらも奨学金で通って!大学行かせるお金なんてない!)と言われた気持ちなんて分からないだろうな、と思いつつ話を耳を傾ける。


「それでいざ通い出したら、化粧めちゃくちゃ濃いギャルとか、女漁りに来てるようなチャラチャラした男とか多くて学校選びと親ガチャ失敗した、俺はこいつらと仲良くできねぇって思ってたんですけど、たまたま隣の席にきた奴が良い奴だったんですよ。最初は爽やかな好青年みたいな感じでなんとなく嫌いだったんですけど、そいつが話しかけてくるから答えてたら懐かれちゃって。それで、Iって頭良さそうなのに何でこの大学なの?て聞かれた時に親のせいって答えたら、分かる。子供が望む進路に進ませる親だろって思うよね…。て俺と考えが一緒だったんですよ。こいつとは友達なれそうって思って、それから仲良くなりました。俺が茶髪に染めた時も親とか周りは陰でコソコソ言うのに、そいつだけは、いいじゃん!似合うよ!それでこそお前の個性だよ!て言ってくれて嬉しかったんです。


そして夏休み前ぐらいに、そいつが仲間と海に行くんだけど行かない?て言うんです。俺は気乗りしなかったんですけど、俺が進学したかった大学のOBとかもくるし、そのOBがお前と会いたいって言ってるって言われて行ったんですよ。そしたらみんな歓迎してくれて、その中に俺と話したいと言ってくれた人もいたんです。その人はいかにも高そうなスーツや価値のありそうな腕時計を身に付けてて、Hくんもお金を持てばこのぐらい何なく買えるよ。ていうかここにいる人達全員、このスーツとか腕時計を現金で一括払いできそうなぐらいのお金は持ってる。やる気があるなら仕事紹介するけどどう?て聞かれて、やりたいです、て答えたら教えるからまず最初に商材を買ってね、商材さえ買えばあとは何もしなくてもお金はどんどんIくんに入るよ、て言われて今までのお年玉とかで払えそうな金額だったので、後日すぐ購入しました。友達もやってるみたいなんで仲間が増えて嬉しいって喜んでくれて。


…で、これがその時の商材なんです!!俺の説明でこの商品の良さが分かると思うので、5分だけお時間くれませんか?」


と、テーブルにスキンケアのサンプルを並べて胡散臭い笑顔で提案をし出す彼を追い出すまで、あと数秒。

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