Bさんの話

「結構前の噂なんですけど、音楽のCDに亡くなった女性の声が入っている、みたいなことを聞いたことがあったんですよ。それで、僕の妹と一緒にその問題のCDを聴いてみたら、本当に女性の声が聴こえたんですよね。あの時は本当にびっくりして妹と騒いだんですけど、僕もそういう現象を発見して妹を驚かせたい、なんて思って色々音楽のCDをかき集めて聴いてみたんです。」


目の前に座る男性Bさんは、寝不足のような顔つきをしていて、アンケートに記入されていた年齢よりもやや老けているような印象を受けた。


「でも、ああいう声って本当に耳を澄まさないと聴こえないんですよね。しかも僕、妹と一緒に両親が残してくれた家に暮らしているからあんまり大きい音で聴くわけにもいかなくて…。それからヘッドホンを買って、大きい音でずっとCDを聴けるような環境になったんです。

それで、少し前にやっと、本当に小さな声で助けて……て聴こえたんですよ。これは妹に報告しなきゃ!とヘッドホンを外した瞬間に大きな声で、助けて!!て聞こえて…。


僕がCDを聴いている間に、家に強盗が入ってしまって…そのCDから聴こえたと思っていた助けてって声は妹の声だったんです…。僕が家にいたのに…本当に申し訳なくて…。」


と、話すにつれて俯いていったBさんは、優しく微笑む女性の遺影を胸に抱えたまま口を噤んでしまった。

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