第1話 Stage On, my body

 この十畳の部屋に主人公がいるよー? どこかな? 制限時間は五秒!

 五、四、三、二、一、ゼロ!

 正解は〜、ここ!


 畳のへりは踏んじゃダメを超えて畳のへり複数本に脚を載せて、クソだらしなく寝っ転がってるメガネの人間が、俺。クソが!

 おはようのオーディションをせず、髪型も大して気にせず、金曜日なことに、喜びやら楽しみやらが、ほとんど浮かばない、なんせ俺はニートだから!


 大学卒業以来、ほとんど働いてないし、働いたとしても短期だから、ほぼニートでいいよ、もう。

 あー、金欲しー、でも就活クソだりー。やってもやっても落ちまくるし、そもそも質問を理解して、できるだけ素早く答えることすらむずいし……。


 そんな世の中のクソさにイラつき、特に何も食べてないのに、むしゃついているとインターホンが鳴った。

 ああ? とインターホンのある方向をチラ見するが、仕事とかで出歩いてる家族から特に何も聞いてないし、どうでもいいしで、起き上がることすらせず、

 スマホどこやったっけ、あったあったと、見つけた若干遠いスマホを持とうと手を伸ばしてると、妙な声が聞こえ、視界になんか黒いのが入る。


「魔法少女――――かい?」

 俺は声の主であろう黒いのを見て「なんか言った?」と尋ねる。

「魔法少女の敵にならないかい?」

 魔法少女の敵……? 最近主人公がおま俺と思った魔法少女ものアニメの妖精的なアレ的ななんか……なんかが、俺の眼前でふよふよしてる。

 質問の意図やらなんやらが分からず、目の前の黒い妖精的な奴について考えようとすると、またこいつは

「魔法少女の敵にならないかい?」と尋ねてくる。


「いや、質問は分かったっすよ。そっちの質問の意図とかが分かんなくて今なんすよ」

 そう言いながら、妖精的な奴を前に、さすがにいくらか居住まいを正す俺。

「勧誘以外になんの意図があって、こんなこと聞くんだい?」


 無職かつ大したスキルも無い俺を勧誘すること自体に納得できず「……勧誘の理由は?」と尋ねると、

「キミには素質がある」と妖精的なのは答える。

「素質ぅ? わし、運動音痴なほうやし、反応速度とかも中途半端やけど?」

「そこは魔法でカバーするさ、ほらこれ」

 妖精的な奴が問答無用で俺に手渡した、握りこぶし大のトゲトゲブローチを見て、これで変身しろと? と思ってから数秒で懸念点が溢れてくる。


 確かこいつ、魔法少女の敵になる、つってたよな。てことは、俺、女幹部になんの? 最近おま俺と思ったあの子みたいに?

 え、あれ、服装ヤバいじゃん、やだ。女幹部ってドスケベ、いや色気担当みたいなとこあるし。


 俺もっとこう、かっこいいイケメンになりたいんだけど、魔法少女の敵になるとしたら。

 で、魔法少女に俺の一部・意味深を塗りつけたり、チキンウィングなんとかとかお姫様だっことかして触りたいんだけど! なんなら変身前から近づいて迫りたいんだけど!


「どうしたんだい? やるの、やらないの?」

「……これで、イケメンになりたいって思ったら、なれるかいね?」

「キミがそれを望むなら、もちろん」


「そういや、魔法少女の敵ってギャラとか出んの?」

「一回出撃で最低時給の十倍ぐらいでどう? 戦果次第でボーナスもつけるよ?」

「いいだろう――っ!」

 今一度黄昏の空を、とか推しの声真似で続けようとしたら、急に立ち上がった影響で、俺は眼前暗黒感のあまり、頭を下げる。


「口調の割に丁寧だね」

「いや、いつもの眼前暗黒感が……。で、どうしたら変身できんの? これが関係してそうなのは、なんとなく分かるけど」


「これに触れたと同時に言葉が浮かんだはず。なりたい姿も浮かべつつ、それを唱えるんだ」

 触れたと同時に言葉が……? 疑問と懸念しか浮かんだ覚えがないけど……。


 もっかい触れたら浮かぶかの、とブローチに触れようとするが、今度は動悸がすごい。

 ここ最近、立ち上がって少しすると、たまに動悸も起きるようになったんだよな……。それとも、緊張?


 よく考えたらさ、魔法少女の敵になるってことは、戦うってことだよな? 俺には素質があって、足りない分は魔法である程度カバーするらしいとはいえ、根本的に避けれる戦いは避けたい派なんだけど。


 いや、自分の敵と名乗る奴を見て魔法少女側が放置すると思えないし、こっちも死にたくなさで抵抗するだろうから、そこ考えても無駄か。

 ていうかまず、魔法少女の敵って死ぬの? それか資格剥奪とかあるパターン?

 ……聞いてない気がする。

 ってかまず、出撃だけで一万ぐらいもらえるの? 魔法少女の討伐だか退治だか退散だかないと、もらえない危険性は?


「最後に確認させろ、出撃だけで一万ちょいもらえて、倒せたらボーナスだよな?」

「そうだよ?」

「俺は変身中に傷を負っても死なないよな?」

「死なない、約束しよう」


 現状で屈指の懸念を晴らし、やっとブローチに触れる。

 そして、浮かんだ言葉を唱える。

Stageステージ Onオン, myマイ bodyバディ


 ステージオンに相応しく、歌い踊るように、『憧れの私』が魔法少女ではなく美男悪役な己に自嘲して変身を終える。

 立ってる自分の頭を変身前から映さない鏡に今の姿を映してみる。


 なるほど、男体化で背が伸びて、肩のラインすら見切れてる……!

 しかし、この服装と垂れてる髪、少し前の朝の変身少女アニメに出てきた、ピーマンとかいろいろ嫌いでロボとか作れる、推しの美男悪役じみてるような……と思いながら顔や髪を確認するべく屈む。


「…………ごめん、もう一回変身し直していい? ほぼ丸被りは流石にちょっと、あれだから……」

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