第13話 蘭華 乱入
「風見さん! いませんか?」
女の子の声が耳には飛び込んできた。一体全体、誰がきたんだと俺は顔を引き、キスをやめた。美鳥の顔も物欲しそうな表情をしていたけど、目がキョロキョロと振れ始めて困惑し始めた。
「この辺りに来たのは、分かっています。追っかけたんですからね。どこですか?」
この声は朝比奈か。まさか、ここまで追っかけてくるとは恐れ入った。だからといって彼女の前に俺たちが出ていくことはできる訳ない。
さて、どうしたものかと考えあぐねていると、彼女の体が震えている。美鳥を見やると、先程まで艶っぽい雰囲気はどこへやら、頭をキョロキョロさせて不安そうに周りを見渡している。
「ミ ド リ…」
近くまで来ている朝比奈には、多分聞こえないぐらいの声で美鳥を呼んであげる。彼女の視線が俺を向いた。そして俺に返事をしようとしたんだろう。唇が微かに動いた。
スッ、
俺は指を伸ばして唇を押さえる。驚く彼女を尻目に体を寄せてギュッと抱きしめてあげた。そして、
♡
彼女の唇をを俺の唇で塞ぐ。一瞬、ビクンと体を振るわせたけど。しばらく美鳥の唇の柔らかさを味わっていると彼女の体から力が抜けていって、俺に寄りかかる。
俺に全てを預けてくれたんだ。周りに音を漏らさないよう美鳥との抱擁を続けていった。
「全く、どこに隠れているんですか? 風見さん。私、かくれんぼの鬼役も得意なんです。探しますよぉ」
垣根の向こうから朝比奈の声が聞こえてくる。いずれ、ここも見つかるかなって、頭の隅っこで考えてしまう。
「蘭華。何がかくれんぼだ。誰と遊んでいるんだ」
いきなり男の声も聞こえてきた。
「お前が1人で帰るのが怖いっていうから、一緒に帰ってやったのに、挙げ句の果てに、こんな公園まで連れてくるっていうのは、どういうつもりだ? 蘭華」
なんだ。朝比奈には彼氏らしき奴いるじゃないか。話方から察するに、結構、親密じゃないかな。聞いた感じは遠慮がない。
「何いってるんですか! 兄さん」
あっ、お兄さんね。そういえば、上の兄弟がいるって言ってたっけ。
「可愛い妹が、頼んでいるんですよ。聞いてあげるって言うのは、兄の勤め、義務ですよ」
なんか極論を論じているよ。
「それにですね。その妹の恋が成就して将来の行く末が決まるかもっていう時に手を貸してくれないの」
「全く、こういうことに私を借り出すなんて、わたしだって、そんなに暇じゃないんだぞ。いい加減に」
「そんなこと言うんですね。蘭華、悲しい。お兄さん冷たい。私、泣いちゃうよ」
「おいおい、蘭華」
朝比奈凄え、兄弟とはいえ、年上を翻弄しているな。
「わかりました。よーく、わかりました。いーです。1人でこの公園の草の根を分けても、風見さん探しますよ。また、朝みたいに見知らぬ男に攫われたって構わない。私、1人でしますから、兄さん! とっとと帰れ。退場! ゲットアウトです」
わぁ、朝比奈が錯乱するんじゃないかって喚き出してる。
すると、
ザァー
と、一陣の風が吹いた。
「きゃあ、痛い、いたい。目に何かぁ、入ったあ」
「蘭華、手で擦っちゃダメだぞ。目に傷がつくからな」
「だって、兄さん。痛い、痛いのよ」
「兎に角、水道の蛇口を探すぞ。ここにはないから。ほら手を出す。ここから出るから」
「でも、兄さん」
「四の五の言うものじゃない。お前が心配だから、連れ出して病院で処置してもらうんだ。素直に言うことを聞いてくれ」
「うん、わかった兄さん。頼むね。お願い」
その言葉を最後に、垣根の向こう側が静かになった。どうやら朝比奈たちは公園を出ていってしまったようだ。
ふぅ
俺は美鳥から唇を離して、息を吐き出した。すると、また風が小さく吹いて俺の頬に触ってくる。その風には金木犀の甘い香りが乗っていた。
もしかして金木犀が俺たち2人のお邪魔虫と化した朝比奈たちを、どうにかしてくれたのか。
今一度、風が頬を撫でる。ドヤって誇らし気な感じが伝わった。びっくりしたけど、ありがたかったよ。
モゾモゾと美鳥が俺の腕の中で身じろぎを始めた。
「一孝さん」
美鳥が俺を呼ぶ。彼女を見ると、また目元まで赤く染まっている。でも口調は落ち着いて聞こえてきたよ。
「いきなりキスして口を塞いだりしてごめんな。あの時はそうやって凌ぐしかないってね」
「いえ、ハグまでしてくれて、とっても幸せな気分でした。ポアポアが抜けてくれません」
「なら、よかったよ」
咄嗟にしてしまったこととはいえ、結果オーライだったな。色々とことなきを得ずで何よりだね。
「はい、一孝さんが守ってくれたんですもの。美鳥は幸せ者です。ウフフ」
「そう、思ってくれて嬉しいよ」
なんとか美鳥も通常モードに戻ってくれたようだ。俺も朝比奈たちのこともあり、とっくに荒ぶるものも、静まってくれていた。
「じゃあ、帰ろうか」
「もうちょっとこのままじゃダメ?」
美鳥は小首を傾げて、催促してくるけど、
「早く帰らないと美桜さんが心配するよ」
すでに陽は落ちてしまい。空が赤くなってきている。なんやかやで結構時間が経ってしまったようだ。
「はあぃい」
気持ちの乗らない返事を美鳥は返してくる。仕方ない。
「美鳥、その時は俺がちゃんと誘うから。約束するよ。今日みたいに何かに絆されてはしないから」
「うん、待ってる」
「さすが、俺の彼女だよ」
「えへっ」
「ところでな。美鳥」
「はい?」
「ブラウスのボタンは、ちゃんと止めてくれよ」
「えっ?」
そうなのだ。今の美鳥は、ブラウスは肩まで露わになり、インナーは、だらんとなってブラカップに支えられた丸い上乳が丸見えになっている。
そんな霰もない格好になっている。美鳥もいろんなことになって、気にもしてなかったようだね。
「あぁー」
美鳥は悲鳴をあげると、俺に背を向けてゴソゴソとしブラウスを整えていく。
そんな仕草も微笑ましくて可愛く見えるよ。美鳥。
俺はいつまでも見ていたけど、帰り道に、こんな格好を披露するわけにはいかないんだね。
俺たちは、手を繋ぎ、ぎゅっぎゅってお互いの手を握り合いながら家路を進んで行きました。
空に瞬く星に見守られて、
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