第7話 ガールズアタック

 昼休み、真壁君とのランチを食べ終わった直後、同じバトミントン部女子の朝比奈ともう1人 石動の強襲を受けた。


「蘭華です。帰りに、ご一緒させていただいてよろし? お時間いただけます?お礼を言いたくて」

「蘭華から話は聞きました。私からも言わせてください。本当にありがとうございます」

朝比奈と一緒にきた石動まで言ってくる始末。実は、俺が遅刻寸前、ギリギリに登校していた理由。朝比奈が街中で野郎に拉致されそうなったんだ。偶々、俺がそこに居合わせたんで大事に至らなかった。袖を引っ張られてボタンが飛んだぐらいで済んだ。事なきを得たんだ。


「私、蘭華とは仲が良いんです。もっと早く事情を聞いておいてあげればって、悔しくって」

「葉月、相談しなかった私が悪いんだから」

「でもぅ」

「明日から、この子と一緒に登校することにします。お借りしたハンカチも綺麗にしておきました」


 朝比奈は綺麗に折畳んだハンカチを両手で差し出してくる。当時、汚れしまった膝とかを拭いてと言って渡したものだ。洗われて綺麗になっているしアイロンも掛けたんだろう、折り目もピッシリとしていた。朝比奈は俺の目を見てじっとしている。


「あの時も言ったけど、俺は『誰かいないか』って声をかけただけ、そんなに気を使うようなことはしていないよ」


 朝比奈に絡んだやつが慌てて逃げ出した。それだけの話。


「でも、それじゃあ、私の気がすみません。放課後、お茶にお付き合いください。私が全て持ちますので」

「私も同席します。是非、わたしたちの感謝の気持ちを受け取ってください」


 朝比奈はハンカチを差し出したまま、石動も頭を下げて2人して言ってくるんだよ。

 朝比奈もそうだけど、石動も2人とも可愛い。そんな2人がお辞儀をしているんだ。そんな仕草を見て周りがざわつきだした。

 チラッ、チラッっていう視線を感じながら、


「わかった。こうならどうだろう。朝比奈は俺の縒れたハンカチを洗ってくれた。更にアイロンまでかけてくれた。感謝の気持ちは、それで充分。勿体無いぐらいだよ」


ハンカチは俺も彼女に合わせて両手で受け取る。


「それじゃ、私の………」


ピーンポーン


 丁度というタイミングで午後の授業の始まりを告げる予鈴が鳴って朝比奈の言葉に重なる。


「真壁君。急いで教室に戻ろう」

「ええぇ」


 俺は立ち上がり、真壁君の背中を押して食堂の出口に向かう。


「じゃあ、朝比奈。ハンカチありがとな」

「あ、あの? 風見さん」


 いうが早いか、俺は廊下へ真壁君を連れて出ていく。 

背中越しに、


「なんだよ、彼奴。美少女2人の招待を断るなんて」

「葉月、いいのよ。ああ言うんだから良いの」


 2人の声を聞きながら、教室に戻って行った。


 で、平和の学校生活に戻るはずだったんだけど、


 どうにも、、気持ち悪い。コットンが静かすぎる。真壁君が俺にくれるという粘土フィギュアが来てからなんだけど。コットンは、それを見ていた。机の縁に座って、横にある粘土フィギュアを見ているんだ。

 真壁君がそれを持ってきたのが昼だから、それからずっと見ているようだ。凝視しているわけでなく、俯いて、ちらっ、ちらっと覗き見ているんだ。そしてなんだかモジモジしている。もしかして、もしかすると。。


 そんな張り詰めた空気の中、新学期最初の授業が始まった。


「起ぃ立つ、礼、着席」


 やっと美鳥の号令が聞けた。昨日以来の彼女の声をを生で聞くことができた。

そして午後の授業が始まった。

 なんか、懐かしい感じかする。俺が怪我で学校に来れなくて、2年ぶりの授業を受けた時も、そうだったけど、何やらあって美鳥と直接に話すことが、なかなかできなかったんだ。

 あの時は、俺がクラスメイトに囲まれたりしてたか。今回は真壁君だしなあ。食堂では朝比奈と石動か。

 なら放課後になれば、美鳥に近づいていけると高を括っていたんだ。


 そうして本日、最後の授業も無事に終わり、周りが放課後の雰囲気に変わっていく中で、俺は目の前の懸念事項に対処すべく、机に座り込む粘土フィギュアに声を掛ける。周りには聞こえないだろうと声を顰め、


「なあ、コットン」

「なんじゃ」

「コットン。気になるのか?その人形のこと」

「五月蝿い、黙れ! しっ、しっ」


 コットンが俺に対して手で追い払う仕草をしてきた。

おっ、おっおう。これは、もしかして、


「なあ、コットン」

「五月蝿いと言っておろうが!」


 剣もほろろな対応。やっぱしね。


「お前、それが気になるのか? もしかして好きにでもなったりして」


 コットンの肩がビクンと震えた。そしてゆっくりと俺に顔を向けてきた。

 なんと顔が赤い。頬を染めているんだ。そんな顔で俺を仰ぎ見てくるんだ。


「悪いか。好きになって悪いか? 此奴を好いてはいかんのか?」


 恨めがわしく、言ってきた。


「おぅっ」


 コットンがなんと恋をしているようなんだ。

 それも一目惚れ。真壁君が持ってきた粘土フィギュアに恋をした。俺に似ているって彼が買ってきたものだ。それにコットンが懸想した。

 これは一大事。早速、美鳥に話をしようと腰を浮かしかけたところへ、


「風見さん。誰と話をしているのですが? コットン、コットンて、なんの音のことですか?」


 俺の背中側から声が掛かった。死角からだ。顔は見えなくともわかる。

 これは朝比奈だ、どうやらコットンとの話を聞かれたらしい。


「どうにも、スッキリしないので、また来ちゃいました」

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