第5話 模様替えランチタイム

先生の教示が終わる。


「琴守さん。号令」

「きりぃつ」 


 椅子をずらす音、机が浮いて足が床を鳴らす音。みんなの上履きが床を踏む音が教室の中で響いていく。


「令」

「着席ぃ」


 授業が終わり、みんなも動き出す。昼休みに入るから、食堂へ行く人たち。誘いあって持ってきたお弁当を鞄から出して、各々の机を動かして並べ直して、用意する人たち。パンを買いに号令しているうちに教室を抜け出す不埒な人たちもいる。

「美鳥。私、行くね」


 申し訳なさそうに歩美が告げてくる。


「ううん、久米くんとの逢瀬を楽しんできて」

「逢瀬って、一緒に昼ごはん食べるだけなのに」


 彼女は苦笑する。


「それくらい、しなきゃ。しっぽりと2人仲良くしてよね」

「美鳥。いいの?」

「いいのも何も、歩美と久米くんの事、応援してるってたじゃない。早く言ってあげて」

「ありがとう」

「甘い、あまぁーい惚気話、ブラックコーヒーを用意して聞かせてもらいますね」

「もう!」


 歩美は、頬を染めて教室を出ていった。私、手を振ってあげたよ。彼女が教室を出たあと、手持ち無沙汰なになった手をニギニギしている。振り返ってお兄ぃのところを見ると、すでに先約がいて、何やら話をしていた。なんだろうお兄ぃの机の上であいつがワタワタと手を振り回している。


「さあ、どうしよう」


 歩美から、昼は久米くんと食べるから一緒に行けないと聞かされたのは朝、全校での始業式の直前。他のクラスにいる友達のミッチやカンナとは、式やらロングホームルームもあってスマホが触れず連絡を取れなかった。

1人考え込んでいると、


「美鳥、お一人様なの。ねえ、歩美はどうしたの?」


 横合いから声をかけられた。この声は佐々木美月さん。通学路で一緒になることがあって、よく話しをしている。


「いつも一緒にいるのに、珍しい事あるのね」


 美月の横には彼女の友達の高谷あやさん。


「うん、歩美、これから彼氏とお昼ご飯食べるんだって、だから行かせてあげたの」

「へぇ、歩美にも春が来たんだねえ。夏も終わりだと言うのにさあ」

「美月、そんな事言わない、美鳥、あなたはどうだったの?」

「えっ、私?」


 いきなり、振られてドギマギしてしまう。頬は熱くなってくし、

だって、お兄いとプールでしょ、ホテルでしょ。あと、うふふぶ、

赤くなった頬を手で押さえて、嬉しさに腰をフリフリ。


「何、1人で、にやけて、もじもじしてるんだか」


 美月にツッコミをされました。


「はっ」


 我に返って2人を見ると、ジト目で私を見てきているの。


   かあぁ


 違う意味で顔が赤くなってしまう。胸の中で心臓もバックンバックンいってる。早く元に戻らなきゃ。深呼吸、深呼吸。


   スーハー、スーハー。


 私は、胸に手を置いて目を瞑る。さあ、仕切り直しです。


『どお、落ち着いた?」


 美月に先を越されて言われてしまいました。


「うん、落ち着いたよ。ありがと」

「良かったよ。あのまま止まらないかと心配してたよ」

「もう、そんなにいじらないで、」

「ごめん、ごめんね。ところでさあ」」


 美月がずいっと私に詰め寄ってきた。


「風見さんとは、どうなったの。あなたこそ、もう、お付き合いしているんじゃないの」


 うわぁ、いきなり確信をついてきたよう。


「うん、でもね……、あのね……」


 しなくてもいいのに、言い淀んでしまう。


「美鳥は、風見くんが好きなんでしょう?』


 あやがズバッと、聞いてくる。


「うん、好き」


 好き、お兄のことは大好きななんだよ。反射的に答えてしまう。唇が綻んでいくのがわかるの。

 でも、でもね表に出すなんて恥ずかしいというか、こそばゆいと言おうか。


 あれ、美月が顔を手で支えてる。


「クラっと来たよ、新学期そうそう、美鳥のスマイルパンチもらっちまったよ」

『え? 何! それ」

「貴女の笑顔の威力増しているんじゃない。私まで、クラっときましてよ」


 あやまで言ってくる。だから私の笑顔は武器じゃないんだって。


「美鳥、お昼は私ちと一緒に食べない。風見さんとのこと聞かせてよ」


 美月が誘ってくれた。


「それだけ、笑顔の破壊力あげてる理由を聞かせてもらわないとね」


 あやまで、そんなこと言ってくるの。


「いいよ。私もあなたたちのこと教えて欲しいな」


 歩美は久米くんのところへ行ってしまったけど、新しい食べ友が出来ました。どんな話ができるか楽しみです。


 お兄ぃがどうなっいるのか、気になって見てみるけど、未だにワイワイやっている。彼奴が何やら喚いているようね。いい加減にしてすれば良いのに。



「真壁の野郎に捕まっているようだね。風見さんもオタク趣味あるのかい?」


 美月もお兄ぃのところを覗いていて、そんなこと言ってます。


「そんな事は聞いてないけど、妙に気が合うんだって」


 美月の唇が弧を描く。


「実は性癖を隠していて、いつかコスプレでもさせられるんじゃないよ」


   ギクッ


「違う。お兄いは違う」


 思わず、大きな声を出してしまいました。


「ごめん、ごめんね。そんな大きな声を出さなくても。それにしても’お兄ぃ’ね」


 なんか勘付かれたのかな。


「一瞬、肩が震えたよ。ははぁん、コスプレ趣味は美鳥なのかな?」

「ブー、外れだよ」


 コスプレは、したけどお兄ぃや私の趣味じゃない。でもパパなんてこともいい辛いじゃない。


「なぁんだ、残念。美鳥の着飾った姿、見られると思ったのに」

「残念でした。さあ、食べに行こうよ」

「ああ、そうだね」

「行きましょう」


 食堂へ行く廊下では、ダイエット目的でジョギングしたこととか、夏休みの課題を一緒にしたことを2人にはお話ししました。

 ダイナーガールズについては秘密にしてあります。

 だって、ひとり鈍臭くて恥ずかしいもん。パパからも謎の3人にしたいからって、あまり話をしないようにって言われてるの。まあバレバレなんですけどね。


 カフェテリアに入って行く。美月は、カレーが好きなようで、日替わりのルーやサイドメニューが楽しみだと言ってたわ。

 そう言えばお兄ぃはキーマカレーをナンにつけて食べなのが気に入っていたっけ。

 あやはあやでパスタが好きで日替わりのソースが楽しみだって言ってる。

 で、お兄ぃだけど、幻のミートソースがパスタにかけられたって喜んでいたの。

 私はお勧めのレディースセットを楽しみにしている。夏休みの後半から続けているダイエットでママにも相談したのだけれどレディースセットの献立ならカロリーといい、タンパク質、脂肪分、ミネラルまでしっかり計算されているからってOKが出ている。栄養士さん頑張ってるねってこと。


 各々が選んだものをトレーに乗せて、ちょうど空いているテーブルを見つけられた。

 私たちより前に食べられた人たちが席をたった後みたいね。

 早速、料理を口にしながら、夏休み中のことを話したよ。

 美月は好みのファッションブランドがあって色々とも揃えたいからと、バイト三昧だったんだって。スマイル0円のバーゲンセールをしていたって。

 あやは、なんとピアノを弾いているって聞きました。近い時期に始まるコンペティションに向けて、課題曲の練習に練習を重ねていたって。1日でも休むと、運指の調子を取り戻すのに3日はかかるってことで練習を続けるしかできないって聞いた。


 次は、私の番かなって、思った矢先に、


「相席をしてもよろしいかな?」


 私たちの座っているテーブルの傍で料理が乗ったトレイを持った男子学生からの問いかけがあった。


 このお方は、一年上の朝比奈先輩だよって、美月が教えてくれた。




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