ヴェール7 封印

「おーい、待てってば」

 俺はアッシュと散歩中。ゆりさんが飼うことになったアッシュだが、家で留守番は可哀想とよく真凜の元に連れてくる。

 アッシュはSERClメンバーにも喜ばれていてみんなのアイドルと化している。俺もたまに真凜の元に呼び出されていくとアッシュに会えると嬉しいものだ。

 今日はせっかくだからと散歩に連れ出す許可をゆりさんにもらったのでアッシュとぶらぶらしているのだ。

 アッシュは成犬サイズになったばかり。あの子犬が大きくなったなあって感傷に浸る余裕はない。なんせ力が強くてグイグイいろんなところに引っ張られる。

「そんなに引っ張るなってば」

 とリードを引こうとしたら、手が滑ってリードを離してしまった!

「あ、アッシュ!」

 アッシュはタタタッと走っていく。

「待てー!」

 とにかく走っていった後を追いかける。

 はあはあ息を切らしながらアッシュを見つけた。あいつ神社に入ってしまってる!

 あまり動物は入らない方がいいとも聞いたことがあるので早くアッシュを回収して外に出ないと…

 そんな気持ちも知らずアッシュはどんどん神社の奥に入っていく。

「こらっ!待て!」

 やっと追いついてリードをまずは持ち直してほっとして

「アッシュだめじゃないか」

 と軽く叱ってから前を見ると、目の前には小山がありそこに小さな穴が開いている。

 人ひとりくらいは入れる大きさの穴。

 絶対入っちゃいけないところだと引き返そうとするとアッシュはものすごい力で穴の中へ俺ごと引っ張って入っていく。

 穴の奥に引っ張られて入ると、中は少し大きめの空間があり、壁の前に台と鏡らしきものがあった。

『あ、これ御神体とかか? 本当にまずいところに入っちゃったなあ』

 隣でアッシュはドヤ顔でこっちを見てる。いや褒められないから。

『とにかく誰かに見られないうちに出ないとなあ』

 と思いつつ周りを改めてみると、壁にある違和感というか不自然さに気がついた。

 よく見ると、何かの模様のようなものが入っている。

 暗がりだし、岩壁に描かれたパターンと見て取れる模様は色褪せて消えかけているところもあった。

 もうちょっと詳しく見てみたくなり、近づいてそっと模様を触ると鈍く光った。

「なに?!」

 鈍い光は触った部分を中心にパターンの図柄に沿って広がり、穴中の壁が光で満たされていく。

 所々模様が消えかけた箇所は光らず、斑らな光り方になったものの穴全体を光が覆った。

 このパターンもいうか図柄は見たことがある。

「コンピューターの基盤みたいだ」

 チップとチップを様々なラインが複雑に繋ぎあわさって大きな機能を果たす。

 じゃあ、この目の前にある基盤は何をするために作られたのだろう? そして、こんなものがいつ作られたの?

 神社の奥にあった穴という場所から想像していなかった光景に呆気にとられていたら、

「封印解除システムが起動中。あと30秒でプログラム展開開始します」

 穴全体に謎のアナウンスが響き渡った。

 封印解除? なんの封印? なんか嫌な予感しかしない!

 何故かあたふたしてしまい慌てていると、

「プログラム展開開始します」

 うわー始まっちゃったよ。

「報告。プログラム起動中にエラーが発生。エラーが発生。発生…」

 光の線をよく見ると、さっきの消えかけた柄のところで流れが止まっているようで点滅していた。

 それでも光が流れるところは流れ続け、それは奥にある鏡に集まっていく。

 ある程度の光が集まったのか鏡から何かが出始める。それはアビス・オーラだった!

 一応ステッキは、ある。そして今取り憑ける存在は俺とアッシュだけ。

 どうしたものかと考えているとそのオーラは人のような形になっていく。オーラだけで形になるのか?


 それは歴史の本で見たことのある姿に似ていた。

「卑弥呼だ!」

 その卑弥呼のような形のオーラは上半身から細かく形取っていき、最後に足を作ろうとした時、パーン!と鏡が割れた。

『あああ、あと少しで封印が解けたものを』

 頭に声が響いてくる。出来上がりかけていた身体はまた元のオーラに戻り始める。

『かくなる上は、依代をさがすまで』

 ほぼオーラだけの形になったモノは俺を避けてそのまま穴の外に出ていったーーー

「逃しちゃった」

 俺じゃどうにもならないか。でもあのままじゃ何か事件になるのは確実だ。SERClに連絡を、と思ったら着信だ。

「もしもし」

「逃したね、あほぅ」

 真凛!何処からか見てる?!

「アッシュには盗難防止でGPSとカメラ付きだよ」

 確かに首輪にカメラレンズがある。

「覗き込むんじゃないよ。画面いっぱいのお前の顔見ても嬉しかないよ」

 それはそれで酷い言われようだが。

「とにかくここからすぐに出てあのオーラを追いかけます」

「待ちな、剛。あっちの追跡はこっちでやる。お前にはその穴で調べて欲しいことがある」

「えっと、何を?」

「その神社に『何か』あるのは調べがついてたんだが、その何かがわからなかった」

 知ってたんだ、ここ。

「ただ、あんなオーラを持つ存在が封印されているとは流石に思わなかった。よく見つけたよ」

 少しだけ褒められてる?

「逃したのは笑えないがね」

 だよねー。

「でだ、その封印解除は完全じゃなかったのかい?」

「うん。エラーが起こって不完全だったみたい。だから人の形になろうとしてなれなかった」

「ふむ、不完全な解除ということか」

 少しの間、沈黙が流れた。

「剛、周りを見て変な違和感とかないかい?」

 違和感? ぐるーっと周りを見渡してみる。

 割れた鏡の周辺が線香花火のようにパチパチと光を放ってる。

「鏡の落ちてるところ!」

 アッシュに近づかせて首輪のカメラで見ているようだ。

「剛、その破片の光る所をバイザーで調べな」

 光る部分を改めてバイザーでよく見てみる。ん? この光って。バイザーを使って光を拡大して凝視すると、光は0と1の数字の集まりになっていることに気がついた。

「え!? これって数字の塊?」

「当たりだね。それはプログラムの破片なのさ」

「破片?」

「封印解除プログラムのカスってところかねえ。剛、これをアタシの所に送っておくれ」

 俺はバイザーで映像として録画して真凛に転送した。

「これはとんでもない拾い物だね。封印に使ったコードや、解除コード、この場所を隠蔽するためのコードまで。残りカスとはいえかなり肝心なところが無事だね。解析したら色々役立ちそうだ。よくやった、剛」

 真凛は館に送った映像をさっそく見ているようだ。

「お役に立てたなら何より」

「さて、お楽しみは後にしてアンタたちは館に戻りな。あの古代の女はアタシらで探しておくよ」

 あの逃したオーラを早く見つけないとな。

 近くで見たから感じたあの力のすごさ。MaWにさせるととんでもない事になりそうだ。

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