第8話  1000円カットはギャンブルです。

髪が伸びた……!そういえばリストラされて以来、髪を切っていなかった。

そうだ、髪を切りに行こう。


僕は荷物を用意して颯爽と家を出る。




「おぉ、こんな近くにあったのか。」


徒歩二分の場所に美容院をみつける。


「せ、1000円カット!?」


どうやら今流行りの1000円カットだ、僕は迷わずここの美容院に決めた。



『ウィーン』



美容院の独特な匂いが体を包み込む。



『いらっしゃいませ〜。こちらにお座りください〜』


このときから僕の変なやつメーターは反応していたのだが、まさか美容院ではないはず……と自分を律した。



『髪型はどうしましょう〜?ご希望はあります〜?』


「あぁ、そうですね。かなり髪が伸びているので全体的に軽くしてもらいたいです。」


『ほうほうほう……となると坊主でよろしかったですか?』



「いや、よろしいわけねぇだろぉぉぉおお!?」


『……え?全体的に軽く、では?』


「いや、たしかにそうは言ったけどぉぉおお!坊主を希望なら坊主でお願いしますって言いますよね!」


『あぁ〜!たしかにそうですね、すみません。では、坊主でよろしいですか?』


「いや、話きいてましたぁああああ!?」


『はい、坊主でお願いしますと言いましたよね……?』


「いや一言もいってませんけどぉぉぉぉおお!?」




やはり予想通りヤバイやつだった……本当にぼくが引っ越してから変人と接する機会が増えてしまった。




「…………ハッ!!まさか、あなた切るのがめんどくさいから楽にできる丸刈りにしようとしてますね!?」


『チッ』


「うわ、舌打ちした!舌打ちした!」


『バレたら仕方ねぇ、フーッハッハッハ!そうだよ……切るのがめんどくさいのさぁぁぁああああ!!何か悪いかぁぁぁあああああ!』


「はい、クソ悪いですね、真面目に働いてください。」


「はい」





           ◆




結局、ネットで簡単に調べた髪型を見せた。



『んぉお〜、はいはいはいはい……なるほどぉ〜』



顔を覗くとかなり渋い顔をしている。



『オッケー、俺に任せろや』


「調子のんな」


『はい』





チョキチョキチョキチョキチョキ……



表情とは裏腹に順調に作業が進んでいる…………気がする。




『いやぁ、久しぶりのお客さんでねぇ……かなり僕舞い上がってるんですよ〜着々と客が減っていってるんでねぇ』


「……え?どういうことですか?」


『いやぁ、うち美容室なんで同じ客がまた来るってことがないんですよね。なので新規のお客さんをぼったくって生計を立ててるんですよ〜』


「ぇぇぇええええ!?1000円じゃないんですかぁぁぁあああ!?」


『はい、20000円でやらせてもらってます。』


「いやいやいや!おかしいでしょ、帰りますよもう!」



僕は座っていた椅子を立とうとした。




「「「!?」」」


『お客さん、途中で帰るのは無理ですよ……』


腰辺りに、ジェットコースターにある安全バーのようなものがついており身動きが取れない。


「「う、うわぁぁぁああああああ!!!完全にやられたぁぁぁぁぁあああああ!!!」」





それからのことはあまり覚えていない……





          ◆





『お客さん、終わりましたよ。』


気がつくと散髪が終わっていた……目を開けた瞬間に状況を把握する。



『はい、20000円になりま〜す』



僕はなけなしのお金を払う。



『ありがとうございました〜またお越しください!』



「いや、来るわけねぇだろぉぉぉぉぉぉぉおおおお!!!???」


僕はこの美容院に凄まじい恨みをもった。



「バーバー馬場……絶対にわすれんぞ……!!」


僕は劣等感にさいなまれながらも渋々家にかえる………







お風呂に入る前にふと鏡を見た。





「……意外と似合ってんじゃねーか」



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