第7話 アイドルグッズは値引きを待つべきです。
毎度のように安眠することはできない。だが少しは慣れてきた……呪いと音楽フェスを長い時は朝の8時までやっているときもある。その都度1000円の代償だと思い乗り越えている。
現在7時20分であるが203号室のヤンキーアイドルオタクはまだ音楽フェスを
開催している。
「!?」
――音楽フェスが急に止まった。
「ピンポーン」
急に嫌な予感がしてきた。部屋からでるのがとても怖い。だが、恐る恐る
ドアを開ける……
「ガチャッ」
「……は、はい。」
『に、203号室の龍門寺源十郎だ。(第2話参照)頼みがあってきた。』
仕方なく部屋の中に入れる……
◆
何か言いたそうな顔でこちらを見つめている。
『……あ、あの…非常に言いにくいんだが、田中に頼みがあるんだ。』
その表情は真剣そのものだった。神妙な面持ちで話を聞く……
『田中……期間限定のアイドルグッズを俺と一緒に買いにいってくれぇぇぇぇぇええええ!!』
「……ん?」
『は、はい?』
「あ、アイドルグッズですか……?」
『はい、猫々坂22の期間限定グッズが今日の11時に販売されるんだぁぁあ〜!
一人で行くより二人で行ったほうがいいだろぉぉぉ〜!』
僕はこのマンションに来てから便利屋のような仕事しかしていない。
「僕じゃないとダメなんですか……?少しめんどくさいんですけど。」
『おれがアイドルオタクってことがバレたのがアンタだけなんだよぉ〜!おれはだれにもバレたくなかったんだ。でもあんたにバレた、だがおれはこのピンチをチャンスに変える。唯一おれの秘密を知っているアンタを利用し、アイドルグッズを集めるんだぁぁ!!』
何一つ心に響かなかった。まず第一、他の住民に絶対にアイドルオタクであることはバレている。しかもこの男は僕を”利用”する、などとほざいているのだ。そんなやつなんかの頼みなんぞ聞けるわけがない。
『報酬はたんまりある』
「いいだろう」
僕は困っているひとがいると絶対に助けたい性格なので助けることにした。
◆
どうやら電車に乗って移動するようだ。ほとんど知らない男とほとんど知らない
アイドルグッズを買いに行くのはまあまあ無理がある。
『ここからに2時間かかる、今の時間が八時。10時についたらそこからすぐに並ぶ……でないと、なくなってしまうからなぁ!』
どうやらコイツと往復二時間の地獄の時間を耐えないといけないようだ。
僕は日頃の寝れないストレスをここで発散するため寝ることにした。
「……おい、起きろ。起きろぉぉお」
――現在9時。龍門寺に起こされた。
『俺が猫々坂22についてみっちりと教えてやろう!!』
いまの僕にとって一番いらない情報である。
『まずな、センターの霧島京香ちゃんがかわいいんだよ〜!しかも天然と来た!
あの子のことを嫌いになるやつはいねぇぞ! そして絶対的エースが篠原七海ちゃん。通称”ななみん”だ。だが、おれの推しは相原千春ちゃんだぁ!あのこは巨にゅ、
めちゃくちゃ可愛いんだよぉ〜』
あ、聞いてなかった、だが聞き返すと同じ話をされそうなのでおとなしく聞いといた。
――40分くらいの時間が経っていた。
『でさぁ!そこで千春ちゃんが嬉しそうに跳ねるわけよ!!そこで揺れるむn、
嬉しそうで可愛かったのさ!』
黙っていれば40分もアイドルの話をされていた。
『でな、まだあるんだよ!水着で水球するって企画のとき……』
「だまれ」
『え、はい』
◆
会場に到着した。よくあるCDショップのようだ……
『よぅし!!到着〜〜!腰がいてぇぜ〜〜!』
腰が痛いなんて生ぬるいもんである。こちらは軽い鬱になっているというのに
……
『ようし…あ、財布持ってたっけ。』
そういって龍門寺はリュックを漁った。ものすごい顔でこちらを見ている。
『…………わ、忘れた』
「うん、かえろっか」
『はっ!!近くにコンビニがあるからそこのATMにいけば!』
僕は一人で待つ羽目になった。どっちかというと一人のほうがマシである。
―――龍門寺は一時間遅刻した。
『くそぉぉぉおお!!あの警官めぇぇえ!職質なんぞしやがってぇぇ!
この見た目で身分証も財布の中だったから手間どっちまったぁぁぁあ!!』
僕は内心ざまぁみろと思っていた。
『いや、まだあるかもしれん!!いくぞぉぉぉぉおおお!』
CDショップに入る…龍門寺はとても焦っている。
『ここだ!えぇと……あ!あったぁぁぁあああ!!』
どうやらお目当ての品は残っていたようだ。
「ん? ってかよく見たら全種類めちゃくちゃ残ってんじゃねぇぇか!!」
龍門寺はなんとも言えない顔でこちらをみつめ、気まずそうにはにかんだ。
「――こちら2点で2080円になりまーす」
全く僕がついていく必要がなかった……今ものすごくコイツに苛ついている。
『よし、田中。今日はありがとう!これが報酬だ。』
そういって龍門寺は”五万円”を手渡してきた。
「え!?ご、五万円もぉおおおッッッ!?」
『あぁ、俺の父さんは社長だからな!そのくらい問題ないぜ!』
「おぁあ……あ、あざっすぅ」
僕がついていく必要しかなかった。……今ものすごくコイツのことが好きになっている。
帰りの電車も猫々坂22の話をずっとされ続けた。だが、五万円があるので
苦ではなかった。
便利屋になるのも案外悪くないかもな。
―――――――――――――――――――――――――――――ー
これは余談だが、その後売ってあった猫々坂22のグッズは売れなすぎて
バーゲンセールで一つ”50円”で売られたらしい……
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