第5話  女探偵は頼りなくて不安です。

毎度のように眠りを妨げる騒音に苦しめられながらも一日が始まった。

僕にはまだやることが残っている。それは”ご近所挨拶だ”。


前は隣の部屋に挨拶をしたのだがまだ向かい側にも部屋があるのだ。

僕は恐怖しかなかったが、勇気を振り絞って部屋を出た。




『302号室……次はどんな人だろう。逆に普通のひとかな。』


一人でボソボソつぶやいていると勢いよくドアが開いた。


「ゴッッ」


鈍い音が廊下に鳴り響く。


「きゃぁぁぁぁあああああああああああああっっっっっ!!」


部屋主であろう20歳くらいのおんなが勢いよく叫んだ。


『変態!変態!変態!変態!へん、ゲホッゴホッ!」


「バタンッッ」


女は僕の懐に倒れ込んだ。



僕は女の人が苦手だ。理由は自分にもわからない。女の人が苦手なことが原因で

職を失ったのだから相当である。


……だが、この女はどうにかしないといけない。


僕は彼女を担ぎ、彼女の部屋のベッドに寝転ばせた。

案外可愛らしい顔をしていた。






      ◆



現在完全にやばい状況である。それはそれはヤバいのである。


彼女が意識を取り戻し、僕の顔を見るやいなやスマホを音速で手に取り

警察を呼ぼうとしているのだ。


『だから違いますよぉぉぉお!』


「なにがちがうって言うのよ!」


『僕はただ挨拶に来ただけで!」


『あ、そうなの。』


いや、以外とすんなり理解すんのかい。


「私は今から仕事に行くのよ?早く出ていってくれる?」


「何の仕事をしてるんですか?」


「ふっふっふ〜っ 私は探偵をしているのだ〜!」


「ええぇぇぇ!!」


『依頼はこの私”長谷川美琴はせがわみことにおまかせあれ!』




初めて探偵を見た。案外普通の人なんだな……





「そうだ!あなた、手伝いなさい!」


「はぁ?なんでそんなことを僕が?」


「報酬はあるわ。」


「やります。」




女は苦手だが金のために手伝うことにした。





       ◆





マンションを出て住宅街に来た。


「今日の依頼は猫を探すことよ!手伝いなさい!まず特徴を説明するわね。


名前はさっちゃん。種類はロシアンブルー。色は灰色、首輪は茶色よ。


「ここの住宅街に逃げたらしいわ。早く探してあげないと!」


「うぅん…わかった、僕はあっちを探すから君はあっちを探して!」


『無理よ』


僕は一瞬思考が停止した。


「どういうことだよ!君もさがすんだろ!?」


『私は猫アレルギーなの。そしてねこがとても嫌いなの、

ピーマンの次に嫌いなのよ?まぁ私の実家は野菜農家だけどね、フッフッフッ』


「僕がいなかったらどうするつもりだったんだよ!」


「あなたがいるからいいじゃない。あなたしかいないの。」



急なツンデレに言葉が出なかったが喉から振り絞って声を出した。



「ヒェイ」






        ◆






「あんた!くまなく探しなさいよ!ほら、そこの溝の中もいるかもしれないじゃない

!」



だんだんと腹がたってきた。たとえ可愛らしい顔とはいえ、こんだけ指図されると

ムカついてしまう。」



「あっ!猫がいたかも。と思ったらゴミ袋だった。なんでなのよぉ……」


彼女は天然なのかもしれない。






「もう三時間も経ったぞ。」


『そうね、今日は無理そうね。あ、そういえばあなたお名前は?』


田中直政たなかなおまさです。向かいの部屋に引っ越してきました。よろしくおねがいします。」



『直政くん。きょうは本当にありがとう。探せられなかったから報酬はないけど

またできたら一緒に探してほしいな……』


人助けというのは案外気持ちのいいものだ。



「僕もその猫は見つかってほしいので、時間があれば手伝いますよ!」



『やったぁ!嬉しい!探す人が二人になったら見つけられそう!依頼者をもまたせてるからはやく見つけようね!直政くん!』





「え?」




『どうしたの、直政くん?』



「今、二年って言った……?」



『うん。わたし猫嫌いだからさいしょの一ヶ月サボってたの。でもわたし絶対見つけ出すから!!』




「いや絶対無理ぃぃぃぃぃいいいいいいい!!!!二年も経ってたらさすがに

猫はもうどっかいってるよおおおお!?」




『んぇ?』






向かいの部屋の住民は天然ツンデレ探偵でした。
















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