第4話  マダムとモヤシは大嫌いです。



最低の目覚めを迎えた。

藁人形を打つ音と猫々坂22のカス曲がまだ頭の中を縦横無尽に駆け回っている。

これが毎日続くと思うと嫌気がさす。だが、1000円で住む代償なのかもしれない……




            ◆




おなかが空いた。

引っ越ししてからまだ何も食べていない……


『スーパーでもあるかな?』


重い体を動かし窓から外を覗く。


『スーパーがあるじゃないかぁぁぁぁぁぁあああ!!』

僕は急いで支度して部屋を出た。




        〜受付〜


『スーパーに行ってきます!小腹が空いたので。』


「ZZZ……」



受付が寝ている、ということよりやはり真っ黒なことが気になって仕方がなかった。




           ◆




「おぉ、業務スーパーか……安くて量が多いからなぁ、ありがたい。」


『ウィーン』

業務スーパーの涼しい空気が体を包み込む。


「あーーんたの接客が悪いざますよぉおお!!」


性格の悪そうな推定50代のマダムが怒鳴り散らかしている。

入店早々、気分が悪い幕開けでしかない。


『も、申し訳ございませんっ、すぐにお取り返しますのでっ』


「そんなことはいいザマス!タダにしてくれるザマスよねぇ?

こ〜〜んな悪事がネットに出回ったら炎上間違いなしザマスよぉ!?地球温暖化が急速に進むザマス!炎上の熱で!タダざますね!? ねぇ!?」




周りの客がとても引いている……

そのマダムは結局一袋18円のもやしをタダでもらっていった。

炎上どうこうならあのマダムのほうが炎上しそうな気もするのだが。


「関わりたくないなぁ、あーいう人と……」



そう思っているのも束の間だった。


「ドンッ」


肩がぶつかった。


「す、すいません!」



  「!!」


やはり僕は不運かもしれない。一番起きてほしくないことが起きたのだから。



「痛いざますよぉおおおお!!!治療費どうするざますかぁああ!」


紛れもなくあのマダムだった…アニメに出てくる嫌味マダムをそのまま具現化したような見た目である。


「治療費なんてむりですよ!怪我もしてないじゃないですか!」


マダムが驚愕の一言を放った。


「ならモヤシ。それでいいザマスよ。」


治療費が頭の中を埋め尽くしていたせいでモヤシがとても安く感じてしまった。

こんなの絶対おかしい話なのに……

更におかしいのはこのあとの僕の発言だった。


『お願いします!!』


僕はもう会わないであろう謎のマダムに18円のモヤシを買ってしまった。


たかが18円、されど18円……


ぼくは安い冷凍食品とカット野菜を買って店を出た。

脳裏にはモヤシが駆け巡っていた……



ちょうど店を出たタイミングで見覚えのある女が歩いていた。

買い物袋にはモヤシとパンの耳がぎっしり詰まっている。


あのマダムだ。おそらくスーパーのあとにパン屋でパンの耳を買ったのだろう。


僕は気づかれないようにマンションに帰る。




なぜだ!!なぜ同じ方向にこのマダムが進んでいる?!


最悪の事態はこのときよぎっていたが、僕はそれを信じたくなかった。


いつまで経ってもマダムの姿が途切れない。買い物袋を腕からブラブラ揺らしながらご機嫌そうに歩いている。





(ぁぁぁぁあっぁあぁぁぁあああああああああ!!)


最悪の事態は現実になってしまった。というかもうどうせそうなんだろうとは思っていた。そして階層も一緒で、マダムの部屋は207号室だった。


僕はつくづく不運である……






この日から僕はマダムとモヤシが嫌いになった




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