第3話

「いらっしゃいませ。」


男の子がガラスの引き戸を開けて、少し気まずそうに、店内をヒョコリと覗いた。


制服を着ているから、中学生か。


「どうぞお入り下さいませ。」


丁寧に、お客様をお迎えする。


彼はソワソワしながらも、無言で熱心に、壁にディスプレイされたチョコレートの空箱を物色していた。


やがて、

「あの、ここのチョコレートは結構、苦いって聞いたんですけど。」

と質問してきた。


そうなんだよ、当店のチョコレートは、

魔法界の風味基準で、どれもカカオの割合が抜群に高いから、子供ウケは滅法悪いのだ。


決して、薬草のせいじゃ無いからね。


僕は易しく、原料や製法をご説明する。


彼は納得した様子で、

エクアドル産、

コロンビア産、

それと口直し?に、ストロベリーを試食し、


「コロンビア、シエラネバダの、

チョコ下さい。」

とオーダーした。


「かしこまりました。どなたかへのプレゼントでしょうか?」


彼はちょっとモジモジしてから、こう答えた。


「あの、自分用です。俺、自分を好きになりたくて…。」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る