第12話 放課後

 本日最後の授業も終わり普段このあと部活動に行く生徒たちも試験前ということで、いつもと違い嬉しそうにしている。歩は部活動に入っていないので部活をしている生徒達の大変さや楽しさはわからないが、部活が休みではしゃぎたくなる気持ちを少し味わってみたいとも思う。

 歩も帰ろうと教室をでて正面玄関へ向かっていると、廊下の角で複数人の女子生徒、先輩達に囲まれている天使様がいた。


「あんたちょっといい」


 はじめに口を開いたのは清水さんの正面にいた一つ上の先輩だ。表情と声色からかなり機嫌が悪いように見える。


「はい、なんでしょう?」


「イラつく、あんたのせいで。」


「わたしがなにかしてしまったのでしょうか?」


 いきなり複数人の先輩含める生徒達に囲まれ不安そうにしている。それもそうだ、何の前触れもなくいきなり多人数に囲まれたら少なからずとも恐怖は感じる。俺だってほかの生徒だってそれに変わりはない。


「そうよ、あんたがうちの彼氏に愛想振りまくるせいでこの前天使様なら優しくしてくれるとか言ってキレられたんだけど。マジでどうしてくれんのよ。」


 とばっちりもいいとこだ。彼氏に怒られたからと言って腹いせに清水さんに当たるのは違う。たしかに自分の彼氏に恋人関係にある自分と天使様とで比べられるなんて彼女からしたら悲しくつらいものでしかないだろう。だが比べられたからと言ってそれは彼氏がよくない発言をしたのであって清水さんは無関係のはずだ。


「すみません。あなたの彼氏さんがどなたかは存じ上げませんが、その方と特別接点があったわけではありませんしそこまで言われる筋合いはないと思います。」


 一対複数人という状況に立たされているが清水さんも負けじと自分の意見を主張する。


「私も一言いいかしら」


 隣にいた先輩が口を開いた。


「あなた最近特定の男の子とよく関わってるらしいじゃない。放課後隠れて男の子と帰ってるみたいだし学校で噂になってるわよ。うちに男の子を連れ込んでるんじゃないかって。」


「そんなことするわけないじゃないですか!」


「でも実際あなた今までどんなイケメンに誘われても断ってるって聞いたし、交際とか興味ないって言って告白とか断りまくってるっていうじゃない」


「たしかにそれはそうですが」


「だからわかる?恋愛とか興味ないんだったら思わせぶりな態度とかしぐさやめてくんない?普通に鬱陶しいんだけど。それともなに?男の子と付き合うのは無理だけどチヤホヤはされたい的な?まじきしょいんだけど」


「そんなつもり微塵もありません!確かに最近男の子と話す機会は増えましたがそれは友達としてです!交際とか今はまだよくわかりませんが、決して男の子を家に連れ込んだりなんてありえません!」


「でもあなた一年生の間で噂になってるらしいじゃない、中学時代友達の彼氏寝とったって」


「誤解です!私は話があるって言われて!」


途端にフラッシュバックする。初めて会った時、天使様の良くない噂がまわっていると聞いてはいたが、まさか過去の出来事を今でも噂として流している奴がいたのか。


「どうでもいい、とりあえずこの子はあんたのせいで彼氏にひどい扱いされたし私達も迷惑してんの。その気がないならもう男子と関わるのやめてよ」


「それはいくらなんでも...」


 周りが見えなくなってきているのだろうか、先輩の声はだんだん感情に任せて荒々しくなっている。

歩は清水さんを友達として守るため躊躇いもなく彼女らの中に入っていく。


「すみません、彼女嫌そうにしてると思うんですが」


「あんた誰よ」


「星川くん!どうしてここに」


「どうしても何も帰ろうとしたら話し声が聞こえたから。それになんか清水さん辛そうだったしそんな顔してるやつ見たらほっとけないだろ」


「だ、大丈夫ですよ!私は大丈夫ですので先に帰っていてください」


 清水さんは笑顔を見せるが俺にははっきりとわかる。余所行きの笑顔を向けられていることに。


「嘘つけ、大丈夫な奴はそんな顔しないぞ。たまには頼れよこのばか」


「な!!ばかっていうほうがばかなんですよ!」


「いーやばかだね、しんどいならしんどいって言え。助けてほしいなら助けてほしいって周りに頼れ」


「でも私に頼れる人は…」


「俺がいるだろ!俺だけじゃない、康介や舞だっている。頼るってことは逃げなんかじゃないし恥でもない。過去にいろいろあったのかもしんないけど今は俺たちがいる。俺達はもう友達だろ?だから頼ってもいいんだぞ、それとも俺達じゃ頼りないか?」


「そ、そんなことはありません!」


 天使様は首を大きく左右に振り強く否定する。


「あーもしかしてあんたが噂の天使様と仲のいいっていう男子?放課後気持ちいいことしてもらっちゃってる感じ?友達なんて言いつつそっちが目的なんじゃないの?」


「すみません先輩日本語で話してもらってもいいですか?ちょっと僕頭悪くて先輩の言ってること理解できなくて」


「は?あんた誰に向かって言ってんの。上級生に向かって舐めた口きいてんじゃないわよ。あ、それとも図星だった!噂じゃなくて本当だったんだ~、このこと噂でも先生が知ったらどうなるんだろうね~」


「別にいいですよ、こっちも今までの会話全部録音してるんで録音データ学校側に提出しますね」


「え、ちょっと待って。それ、いつから?」


「もちろん初めからですよ」


というのは嘘だ。最初は距離もあり状況把握に時間がかかったためスマホの録音機能を使い始めたのは会話に入ってからだ。だがハッタリでもここは大きくでて証拠をアピールするしかない。


「.........!!!ちょっとそれ消しなさいよ!!ねえ!」


「いいですよ、その代わり条件があります」


「なによ」


「先輩方は彼女に今後一切かかわらないでください。もちろん噂についてもこれ以上広めたりしないでください。もし破るようなことがあればこの録音データはわかりますよね?守ってくださいましたら約束通り先輩方が卒業後消去させていただきます」


「わ、わかったわよ。ほ、ほらあんた達いくよ」


 さすがに先程までの発言を教師達に知られたくはないらしく簡単に引き下がってくれた。とりあえずこれで一件落着した…のかな。


「清水さんさっきはごめん!ばかとか言って。俺ももう少し言葉を選ぶべきだった」


「全然!むしろ私のほうこそ...星川くん。ありがとうかっこよかったよ」


「う、うん?なんか清水さん話し方変えた?」


「そ、そうだね。変…かな?」


「変じゃないけど、初めて清水さんが丁寧語以外で話してるの聞いて驚いてるというか」


今までからは想像できなかったからこそ尚更意外な一面を知った今、驚きを隠せない。


「もともと中学まではこんな感じだったんだ。でも星川くんが私のために本気になって助けてくれて私も自分自身を偽らなくてもいいのかなって。私も前向いて頑張ってみようと思うんだ」


「そっか、前に進めたならいいことなんじゃないかな。えっと、とりあえず帰るか」


「うん」


彼女は今までの過去に吹っ切れたらしく新たな一面をみせはじめていくのだった。

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あの日出会った天使様からいつしか目が離せなくなっていた 星月 @hosizuki_1223

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