第11話 天使様とお昼ご飯

「急にごめんね清水さん、歩が強引にお誘いなんかしちゃって」


 天使様をお昼に誘うことには成功したのだが、信じられないというクラスメイト達の視線を浴び少し疲弊しながらも、歩、清水さん(天使様)、康介、舞の四人で食堂へ移動している


「おい、嘘をつくな康介。俺がいつ無理やり誘ったって?」


「あれー、違ったっけ?歩」


 わざとらしくこちらを見てくる。


「変なこと言うな。清水さんが真に受けたらどうするんだ」


「そうだそうだー!私も誘いたかったんだぞ!」


 舞は自分も誘いたかった意思を天使様に伝えるべくと、机に手をつき身を乗り出している。


「私も皆さんとお話して見たかったので星川くんにお誘いしてもらって嬉しかったです」


「歩、この子いい子ママ泣いちゃう!」


康介は大胆に泣き真似をしている。


「咲希っち私も嬉しいよー!良かったら明日も一緒に食べよ!」


「私でよければ是非」


 天使様は教室でクラスメイト達に見せる笑顔と違い子供のような笑顔で返事をした。変なやり取りをしながらも目的地へ着いた歩達四人は扉から一番近い窓際の席を陣取ることにする。


「康介や舞に対しては割と普通なんだな」


 母親が朝早くから起きて作ってくれたであろうお弁当をつつきながら疑問に思ったことを口にしてみる。


「石崎さんはいつも元気で誰にでもフレンドリーなところが魅力的ですし、西川くんも星川くんと一番仲が良くて楽しそうにお話しているところをいつも見ていましたので悪い方ではないのはわかりきっていましたから。あとは星川くんが心を許してるお友達だからですかね」


「そーかよ」


「咲希っちにそういわれるとすっごく嬉しいよー!」


 最近清水さんからの信頼度が上がっている気がするがあまりにもストレートに好意を向けられるのには慣れていないのでついつい動揺してしまう。


「照れてる照れてる」


「うるさい」


 こういう時康介は歩の表情の変化にいち早く気付く。長年の付き合いだからなのだろうか。


「本当に仲がいいんですね、羨ましい限りです」


 天使様は微笑ましそうにこちらを見ている。


「幼稚園の頃からの付き合いだからな」


「おかげさまでこちとら歩の人助けにふりまわされてばっかりなんだけどなって、歩そんな顔するなって冗談じゃんか」


「好きに言ってろ」


 康介はへらへらしているしもちろん冗談だとわかってはいるのだが、振り回されてるなどと言われると少しいじけてしまいそうになる、というかなってしまっている。こういうところがまだまだ子供なんだろうなぁ。


「大丈夫ですよ、私はそんな星川くんのところを素敵に思いますし、だからお友達になりたいと思ったのですから星川くんは星川くんらしくいたらいいと思います」


 途端に天使様からの表裏ない言葉に、今しがた飲み始めたお茶を吹き出してしまいそうだった。そしてこの純粋な笑顔、危うくころっと持っていかれそうになる。


「そこまでストレートに言わなくていいから」


「そうですか?でもいいところは素直に褒めた方が」


「だ、大丈夫だから!わかったから」


 天使様の率直な誉め言葉を歩はなんとか止めようとする。ほかの生徒だったらいちころだっただろう。


「赤くなってら」


 康介は気づけば弁当に夢中で軽くしか茶化してこない。


「あはは、歩の顔パプリカみたーい」


 一方舞は自分の弁当に入っていたパプリカを箸で挟みこちらへ向けてくる。


「人の顔を食べ物で例えるな、あと人に食べ物を突きつけない」


「でも本当にパプリカみたいに赤いんだもーん!あ、こっちのトマトにも似てる!」


「わ、わかったからもうこっちに食べ物を向けてくるな、頼むから」


「ふふっ、仲のいい兄弟みたいですね」


 天使様ともあろう方から聞き捨てならない言葉が聞こえてきた気がした。


「こんな妹居たらめんどくさくてたまったもんじゃねーよ」


「なんだとー!歩のくせに生意気な!」


 舞は頬を膨らませあからさまに怒った態度をとる。しまった、少し言いすぎてしまったかと思った歩だったが思わぬ助け船が出る。


「そういうところが舞はかわいいんだよ」


 康介は舞に向かって優しく微笑みかける。こいつ舞に対してだけはいつも素直になりやがるんだよな。おかげさまで先程まで歩のことをいじっていた舞が今度はパプリカのように顔を赤く染めている。


「西川くんって意外と大胆なお方なんですね」


 天使様は意外そうに康介の顔を見ている。それもそのはず、教室にいるときは大体いつもへらへらしているのだが、舞に対してストレートな一面を見るのは放課後二人きり、あるいは歩のいる三人の時でけなのだ。


「清水さん、俺なんかより歩のほうがけた違いに大胆ですぜ」


「え、えーっと。確かに誰にでも優しいっていうところは大胆な行動かもしれませんね」


「フォローしようとしてくれるのは有難いけどそんな気使わなくていいし、康介は大体冗談しか言わないから聞き流したほうがいいよ」


「歩はそれでもちゃんと反応してくれるし俺は歩のそういうところ好きだぜ」


「はいはい」


 康介の冗談を軽く受け流し周りを見ると、昼食を済ませたであろう生徒たちが教室に戻り始めつつあるので歩も急いで弁当をかきこもうとした時、なにやら天使様がこちらを見ていた。


「清水さんどうしたの?そろそろ昼休み終わっちゃうよ」


「はい、そうなんですけどこれだけは伝えておかなくてはと思って。星川くん、今日は誘ってくださり本当にありがとうございます。誰かと雑談しながらお弁当を食べるのなんて今までじゃ考えられないことでしたので、ですからこんな楽しいひと時を過ごせるのは星川くんのおかげです。」


 天使様からの笑顔は俺にはあまりにも眩しいものであり、かわいいものだった。やはり天使様うっかりしてるとコロッと持っていかれそうになる。それほどまでに彼女は魅力的だ。意識しないように弁当を食べ進めるのだが康介にはいつもと少し違う歩の表情に一人だけ気づいていた。

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