第10話 お誘いと不穏な空気
お昼休みを迎えると歩と康介は一緒にお昼を共にするため机を寄せ、持参したお弁当を机の上に広げていた。そしていつも通りクラスの男子達はある人の席を囲むように群がっていた
「清水さん!俺と是非昼飯食いませんか!」
「清水さんこんなやつ放っておいて俺と食いましょう!」
彼女が入学してからこのような出来事が一年ちょいも続いている。それでも天使様は丁寧な対応で一人一人に断りを入れてるのはさすがと言わざるを得ない
「ほんと天使様は人気だなー、周りのやつら昼飯誘うのに躍起しすぎだろー」
康介は天使様を眺めながら他人事のように笑っている
「迷惑かもしれないのによくあんなにガツガツいけるよな」
今天使様に話しかけてる男子達は、相手に迷惑だと思われてるなんて考えもしてないだろう
「お前は相変わらずお人好しだな」
康介はニヤつきながらこちらを横目で見てくる
「バカにしてんのか」
「してないしてない、いいと思うぞ俺は。そういうところ好きだし」
「気持ち悪い」
男に好きと言われても気持ち悪いだけだ。人間性を好いてくれての発言なのだろうが
「相変わらず辛辣だな、俺からの愛を受け取ってくれよ」
「その愛は舞にだけ向けてくれ」
「そうだぞ康くん!私にだけ愛を向けてくれないとみんなの前で泣くぞ!」
愛という言葉に反応してか一目散にこちらに近寄る舞。そしてどこかムッとしている
「ごめんごめん、ちょっと歩にイタズラしてただけなんだよ」
康介が舞の手を握り謝ってくるので舞は顔を赤らめている
「じゃあ歩が悪い」
「なんでだよ!」
「冗談だよ冗談」
舞は照れ隠しで言ったつもりなのだろうが、冗談でも悪者扱いされた俺の身にもなって欲しい
「で結局2人はなんの話してたのー?」
「あー、天使様は人気者だなぁって話してたんだよ」
「なるぽよ、咲希っち人気者だよねー。私も人気者になりたーい!」
「お前も十分メインキャラだろ」
こんな濃いやつむしろどうやったらメインポジから消えるんだろう。歩はゲームばかりして学校ではあまり騒がない、学校では陰キャよりのポジションに収まっている
「そうかにゃ〜そうだといいにゃ〜」
「お前が人気者じゃなかったら俺はどうなるんだよ」
「歩は私たちの中じゃメインキャラだから安心するがいい」
「なんだそれ」
友達同士でメインキャラもモブキャラもないだろ。
あほらしくなり現在進行形でクラス一の盛り上がりをみせている天使様の方へ視線を向ける
「誘う?」
「アホかお前は、あんだけ色んな人に誘われてて俺らも誘うとか嫌がらせか」
余計に困らせてどうするのだ。ただでさえ一人一人に断りを入れお昼ご飯を食べるのが遅くなってると言うのに
「歩が誘えばいけると思うぞ」
「何でそうなるのかはわからんが、あとからきたやつの誘いに清水さんが頷いたりしたら誘った俺が他の男子達に殺される」
「だってお前天使様と友達になったんだろ?友達の誘いってことならきてくれると思わんか?それにもし何かあっても俺らが守ってやるしなにより困ってる天使様をほっとけるのかー?」
友達の誘いならきてくれるのではないかという康介の発言には一理あるのだが、最後にお前ならほっとけないだろと言われた気がしてついムッとなってしまった
「誘いづらくなったんだが」
「なんでだよ!」
「ダメだぞ康くん、そんなことして歩が咲希っち誘わなくなったら可哀想なのは咲希っちだよ」
「確かに天使様をあのまま放っておくのは可哀想だよな、すまん歩」
「お前ら俺をなんだと思っている」
呆れて反論する気も失せる。歩が怒らないギリギリのラインを見極めて言葉を選んでいるように感じる
「まぁでも本当に困ってそうだし誘わなくていいのか?」
「お前らにいいように言われるのはあれだが一応誘ってみるか 」
康介からは穏やかな笑顔で、舞は新しいおもちゃを買ってもらう前の子供のようにわくわくしながらこちらを見ている。歩は2人を後にし天使様の周りにいる男子生徒達をかきわけ歩み寄る
「清水さん、良かったら俺らと食う?騒がしいやついるけど」
そう言い視線の先を康介達へ向ける。一緒に食べてくれるかどうかはわからないが彼女にとって歩の誘いが助け舟になればいいと思った
「はい、お願いします」
天使様は誘われると思っていなかったのか少し驚き、そして暫く悩んだあとなにやら覚悟を決めたような顔でこちらを見上げていた
「ん、じゃあっちで待ってるから」
そう言い残し康介たちの元へ戻る際やはりと言うか天使様をお誘いしてた男子達からの殺気を感じる。そして天使様の近くにいた女子達は何故か教室を出ていった
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