集団戦闘訓練⑤

 私たちはお互い所定の位置につく。

 私とクロハ、レザーは全員前衛。

 相手はミルトとリンダが前衛で、ローラが後衛だ。


 講師による試合開始の宣言がなされる。

 その瞬間、レザーが先手を取って飛び出していった。


「ちょっとレザー!勝手に飛び出さないでよ!」


 レザー「知るか!俺の勝手にやらせてもらう!」


 あいつ、好き勝手動いて!

 本当は戦いの前に、二人に指示を出しておきたかったのに、二人とも聞く素振りすら見せなかった。

 マジでむかつくやつらだ。

 でもクロハはレザーと違って向こう見ずに飛び出していかない。

 結構冷静なようだ。


 レザー「食らえ、ミルト!」


 レザーがナイフを抜いてミルトに正面からとびかかる。

 無理だ。

 策も何もない、あんな攻撃がミルトに通用するわけがない。

 案の定、レザーのナイフはミルトの鎧に阻まれていた。


 あろうことか、ミルトには一切ダメージが入っていなかった。


 私はミルトがレザーに気を取られているうちに、リンダに狙いを絞って攻撃を仕掛けた。

 しかし、私の斧の一撃はリンダに当たる寸前で、ミルトの身体に阻まれてしまった。


 ミルト、いつの間に!?


 ミルト「残念だったねエレノアさん。アタッカーはやらせないよ。」


 私の一撃を受けたのにも関わらず、ミルトは一切のダメージを受けていなかった。

 そんな、私の攻撃が通用していないのか!?

 とんでもない、堅さだ!


 ミルト「僕は防御力には自信があるんだ。」

 ミルト「僕が今来ているAランクの鎧、スティールアーマーと、生まれ持った鱗の皮膚によって、防御力は君たちと比べると桁違いなんだ。」


「よくそんなもの買えるだけのお金があったね。」


 ミルト「子供のころから魔物を狩って貯金してきたからね。」


 ミルトの強さにはそんな裏付けがあったのか!

 私はミルトの実力を推し量るため、改めて観察する。

 そこで私は驚愕した。

 私の感覚だと、ミルトの実力は私よりも二回りほど上回っているのだ。


「もしかして、ミルトは3レベルだったりする?」


 ミルト「よくわかったね。その通りだよ。」


「やっぱり…もしかして今まで手を抜いてたの?」


 もしそうだとしたら、私はこいつを許せない。

 順位を抜いて、ミルトより強くなったと思っていたのが道化みたいじゃないか!


 ミルト「いや、学生生活は割とまじめに取り組んでいるよ。」

 ミルト「ただ僕はディフェンダーを目指しているからね。」

 ミルト「ディフェンダーという役割はあまり目立たないから。」

 ミルト「それに、僕はフィールドワークとかも得意じゃないから評価されづらいんだよ。」


 ミルトはそう言って少し悲しげだった。

 そうしてミルトと話していると、クロハが割って入ってきた。


「おしゃべりとは、随分と余裕だな!」


 クロハはミルトに拳を振るう。

 しかし、その攻撃がミルトに通ることはなかった。


「ちっ、さすがに堅いな…」


 ミルト「無理だよクロハ君。君たちの攻撃は僕には通らない。」


 クロハ「ああ、今はそうだな。」

 クロハ「だがいずれ、お前の装甲もぶち抜いてやる。」


 ミルト「なるほど、そう言った鍛錬を数年積めば、君ならできるようになるかもね。」


 クロハ「数年?違うな。ぶち抜くのは今だ!」


 クロハが瞬時に連撃を叩き込んだ。

 クロハの拳がミルトの鳩尾にさく裂した瞬間、黒い閃光が迸る。

 ダメージがミルトの装甲を貫通し、ミルトはダメージを受け後ずさった。


 ミルト「…驚いたよ。クロハ君、君は結構やるみたいだね。それとも偶然かな?」


 クロハ「さあな。だが偶然だったとしても、すぐにモノにして見せる。」


 ミルト「面白いね。でも、忘れていないかい?」

 ミルト「今君たちが戦っている相手が、僕だけじゃないってことをね!」


 その瞬間、私たちの死角から槍が突き刺さってきた。

 鋭い穂先は、まっすぐにクロハを捉えていた。

 クロハはその絶妙なタイミングで現れた槍の一撃を避けることができず、まともにダメージを食らってしまう。

 そして、クロハのHPが3割減ったことで、講師のリタイア宣言がなされた。

 さらに気を取られていた私に、不意に氷の衝撃波が襲い掛かった。


 氷っ!まさか、弱点を見抜かれた!?


 私の種族、バジリスクは水や氷といった冷たいものに弱い。

 その手の属性のダメージは、私たちにとって大きな弱点となる。

 そのまま私のHPも3割減ってしまい、リタイア宣言がされてしまった。


 くそっ、悔しい!何もできずに負けてしまった!


 衝撃がやってきた方向を見ると、ローラが長銃をこちらに向けていた。

 そこで私は理解した。

 あの一撃はローラによる属性弾の一撃を受けたのだと。


 ローラ「じゃあ、あとは任せたー。」


 ローラはそう言うと、自ら棄権を宣言し、戦場を離れていく。

 もう私たちに残されたのはレザーだけだ。

 勝つのは不可能だろう。

 レザーの顔は死んでいなかったが、彼には実力が伴っていない。

 クロハも一撃で倒され、悔しそうに拳を握りしめていた。


 レザーは雄たけびを上げ、ミルトに突進する。

 しかし、その攻撃は、ミルトのHPに届いていなかった。

 そして、すかさずリンダによる反撃が振るわれる。


 終わりだな。


 誰もがそう思っていた。

 けれど、一人だけ違った。

 彼の持つ執念が、状況を覆した。


 レザーはリンダの一撃を紙一重で回避する。

 そして、ミルトに向かって再度猛攻を繰り返す。

 それが何度も続いた。

 次第に、ミルトとリンダの表情に焦りが生まれ始める。

 対して、レザーは楽し気に笑っていた。

 周りにいた誰もが、その光景を固唾をのんで見守っていた。


 そして、ついにレザーの攻撃が、ミルトに黒い閃光を浴びせる。


 レザー「うおおおおおお!」


 雄たけびと共に、レザーのナイフがミルトの鎧に食い込んでいく。

 誰かが、声援をあげた。

 気が付くと、その場の生徒たちは、皆レザーの応援をしていた。

 閃光が弾け飛び、静寂に包まれる。


「HPが3割減ったため、ミルト君リタイアです!」


 講師の先生の宣言が静寂を破り、それにつられ生徒たちからの歓声が沸いた。

 ナイフを抜き、レザーがしりもちをついて息を荒げる。


 まさか、あんな状況からミルトを倒すなんて…

 信じられないものを見た…


 ミルト「参った。レザー君、君の粘り勝ちだよ。」


 リンダ「ああ。見事だった。武人として、君を誇りに思う。」

 リンダ「私たちは二人かがりで君を倒せなかった。完敗だ。」


 ミルトとリンダがレザーに手を差し出す。

 レザーはそれを受け取り起き上がった。


 レザー「ミルト、リンダ。お前たちのおかげで、俺はまた一つ強くなれた気がする。」

 レザー「戦えてよかった。」


 ミルト「それは僕も同じだ。僕ももっと冷静な心を鍛えないとね。」


 リンダ「ああ。同感だ。」


 悔しい。

 リンダとローラに、私を意識させるどころか、私はこの戦いで何もできなかった。

 それどころか、私は相手をなめて手加減すらしていた。

 もうこんなミスはしない…

 次は絶対に私が勝つ!

 ミルトとリンダにリベンジを誓い、こうして最初の集団戦闘訓練は幕を閉じた。

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