集団戦闘訓練③
俺たちは訓練場の一角に集まる。
ピーター「それじゃあ、簡単な作戦だけど、僕は後衛で君たちの回復をする。」
ピーター「イゴールがジークを庇いながら、ジークが相手のHPを減らしていってくれ。」
ピーター「先手が取れそうなら、まず僕がフィールドプロテクションで強化を行うから。」
「回復って、もしかしてピーターはもうレベル2なのか?」
ピーター「そうだね。このあいだの進級試験でレベルが上がったんだ。」
イゴール「すげえ!もしかしてレベル2はピーターだけなのか!?」
ピーター「いや、おそらくだけど、ヴァレリアとギュンターも試験を乗り越えてレベル2になっていると思うよ。」
ヴァレリアとギュンターは、ピーターと並ぶトップ3の実力者だ。
どちらも高い戦闘能力と素質をもっていて、おれは1年位前の模擬戦でギュンターに大敗した。
ギュンターにはいずれ勝ちたいと思っている。
ヴァレリアは今まで見たことのないほど美少女で、光を反射して煌めく銀の髪がすごくきれいだ。
イゴール「マジか!」
ピーター「でもレベル2じゃあんまり自慢にもならないよ。」
イゴール「え?ンなことねえと思うけど…」
ピーター「僕らの同期には少なくとも二人はもっと上のレベルがいるからね。」
イゴール「え、誰なんだ!?」
ピーター「フィガロとタイファンだよ。」
ピーター「今の僕ではレベルが分からなかった。」
ピーター「けどフィガロは前の試験で第四階梯の
イゴール「そうなのか…」
タイファンっていうのは1年位前の模擬戦で、エレノアをボコボコに殴りつけた奴だ。
それだけ聞くと悪いやつだが、タイファンはエレノアの意志が折れていないからあんな行動をとったんだ。
理性ではそれをわかっていたけど、おれは目の前で一方的に殴られる幼馴染の姿を見て、いてもたってもいられずタイファンに喧嘩を売った。
けれど俺は相手にされず、その場はうやむやになった。
そんで、ついこの間の進級試験で、タイファンに勝負を挑まれた。
結果は惨敗。
タイファンは俺の想像をはるかに超える実力を隠し持っていたんだ。
いずれあいつに、俺を認めさせてやるよ。
しかし、フィガロってやつは最低でもレベル4…
タイファンといい、フィガロといい、そんな強いやつらが一体なんでここに来たんだ?
まあ、考えても仕方がないか。
今はフラムたちとの戦いに集中だな。
ピーター「話を戻すけど、最初はウラから狙っていこう。」
ピーター「おそらく《スローイング》の戦技を持つウラがポーションでの回復役を務めているはずだ。」
イゴール「よく知ってんな。なら、ウラは後衛にいるんじゃねえの?」
ピーター「いや、後衛からのポーション投擲は誤射の可能性を生む。」
ピーター「彼女はまだレベル1で《ターゲッティング》の戦技は習得していないだろうから、前衛に出てくるはずだ。」
ピーター「もしそれが分かっていないで後衛にいるなら、相手にしなくていい。」
ピーター「彼女が前衛に出るまで、二人は狙えそうな方から落としていってくれ。」
「とりあえず作戦はわかった。頑張ろうぜ!」
イゴール「おう!」
ピーター「ああ。」
俺たちはフラム、セリーナ、ウラと相対する。
どうやら相手はフラムとセリーナが前衛、ウラが後衛のようだ。
フラムは斧、セリーナは短剣を所持していて、ウラは後衛でポーションボールを握っている。
ピーターの読み通りだ!
フラム「さあ、ティダ…ジーク。先手は君たちに譲ってあげるよ。」
「はぁ?随分と余裕だなフラム!」
フラム「フフ、君たちの実力を見せてくれたまえ!」
「っ!後悔すんなよ!」
あの余裕はなんだ?一応警戒はしておくか!
「イゴール、最初はフラムを狙おう!」
イゴール「了解!」
ピーターはまず【フィールド・プロテクション】を唱えた。
これによって、俺たちの防御力が少し上がる。
イゴール「よっしゃあ!行くぜ相棒!」
ピーター「落ち着くんだイゴール!前のめりすぎると、視野が狭まる。」
ピーター「イゴールはジークの動きに合わせて動くんだ!」
イゴール「わりぃ、先走りそうになった!サンキュー!」
「行くぞ、イゴール!」
イゴール「おう!」
俺は駆け出し、イゴールが俺に追従するように走り出す。
俺はナイフを抜き、フラムに躍りかかった。
フラム「さあ、きたまえティダン!」
フラム「ぐふあ!!!」
俺のナイフの攻撃を、フラムは一切避けられることなく、もろにダメージを受けた。
だが、俺の攻撃は入りが浅かった。
それは、俺がフラムの行動を警戒していたためだ。
警戒しすぎたか?
さらに、イゴールが俺を庇うような動きを見せながら、フラムに拳を振るった。
フラムはさすがにそれは避けたようだ。
フラム「フフ、なかなかやるね!次はこっちの番だよ!」
フラムはそう言うと、俺に向けて、身体全体を使ってめいいっぱい斧を振るった。
そこにイゴールがすかさず割って入り、攻撃を受け止める。
フラムはパワーがないようで、イゴールは少しかすり傷を受けた程度ですんだ。
イゴール「相棒はやらせねえぜ!」
イゴールはかばう動きに慣れてきたみたいだ。
さすがだな!
そんな様子を眺めていると、セリーナが俺に迫る。
セリーナ「ウフフ、防御がおざなりですよ?剣士としての腕前はいまいちですか?」
セリーナが俺を翻弄するような動きで煽りながら攻撃を仕掛けてきた。
その動きに俺はイラつき、対応が遅れ、ダメージを負ってしまった。
大したダメージではないが、俺はセリーナに一矢報いてやるという気持ちが高まった。
そっちがその気なら先にお前を倒してやる!
ウラ「今回復します!」
ウラがそう言うと、ポーションボールをフラムへ向けて投げる。
しかし、それはフラムに当たることなく、イゴールの身体に命中した。
イゴール「うお、ラッキー!サンキューウラ!」
ウラ「うそ!」
ピーターの読み通り、ウラは誤射の可能性を理解していないみたいだ。
イゴール「よっしゃ!つづけて行くぜ!」
イゴールはそう言ってフラムを殴りつける。
フラム「フン、ノロマめっ!ぐはぁ!」
フラムはイゴールのパンチを食らった。
しかし、審判による退場が宣言されないため、ぎりぎりHPが3割を下回らなかったようだ。
イゴール「くそっ、ちょっと残ったか!後は任せた相棒!」
「おう!」
しかし、俺はセリーナに一矢報いるため、セリーナにナイフを向ける。
セリーナはニヤリと笑みを浮かべる。
イゴール「なにやってんだ相棒!?狙いはフラムだろ!?」
「うるせえ!」
俺はイゴールの声を無視してセリーナにナイフを振るった。
しかし、その攻撃はセリーナにひらりと躱されてしまった。
その瞬間、俺は唐突に冷静になる。
「あれ、俺なんであんなにセリーナを攻撃したかったんだ?」
イゴール「それはこっちのセリフだ!」
ピーター「セリーナは多分、《挑発攻撃》を使ったんだ。」
ピーター「セリーナの攻撃は絶対に避けてくれ!」
後方でピーターが声をあげる。
挑発攻撃?セリーナが戦技で何かしたってことか…
セリーナ、厄介だな!
「悪いイゴール。相手の術中にはまっちまったみたいだ。」
「次は気合で避ける!」
イゴール「頼むぜ!」
すると、相手の後方からポーションボールが飛んできた。
今度はフラムに命中したようで、ウラはほっとしていた。
イゴール「くそっ、回復されたか!」
フラム「ぼうっとしてていいのかい?」
フラムが再度俺に向けて斧を振るう。
それを再びイゴールが間に割って入り受け止める。
その瞬間、偶然にもフラムの斧がイゴールの心臓付近に命中し、黒い閃光がはじけた。
イゴール「うぐあああああ!」
イゴールのHPが3割減ったことで、審判の講師から退場の合図が促された。
イゴール「くそっ、すまねえ…」
イゴール「あとは、任せたぜ…」
「ああ!」
俺は気合を入れる。
セリーナが再び、俺を煽りながら、翻弄する動きで俺に迫る。
俺は回避に全神経を集中させた。
最後を任されたんだ、ここで、終われるか!
俺は気合でセリーナの切っ先を見つめ、強引に反射神経のみで回避に成功した。
はぁはぁ、ギリギリだった!
今度はこっちの番だ!
思い出せ、あの感覚を!
俺はナイフを構え、フラムを見据える。
フラム「フフ、きたまえ、ティダン!」
「うるせえ!俺はジークだ!」
俺はフラムに向けて駆ける。
フラムは俺の攻撃をよけようと動く。
おせえ!そんな速度じゃ、俺の攻撃は避けられない!
俺はフラムの心臓付近を狙ってナイフを突き立てた。
その瞬間、黒い閃光が弾けとんだ。
そして俺はあえて力を抜き、大ダメージを与えるのを避けた。
別に殺し合いをしているわけじゃないからな。
ダメージを受けたフラムが膝をつく。
審判の講師によってフラムのHPが3割減ったことを確認され、フラムの退場が宣言される。
フラム「さすがだねティダン…このボクに膝をつかせるなんて。」
フラム「このまま反撃したいところだけど、ボクは疲れたよ。」
フラム「今日のところはこれで勘弁しておいてあげるよ。」
セリーナ「はいはい。負け惜しみはいいですから、とっとと退場してください。」
フラム「おい!ちょっと痛い!放せ、セリーナ!」
フラムがセリーナに耳を引っ張られて退場していく。
そうして戻ってきたセリーナがウラと何やら話をしたあと、二人で近づいてきた。
セリーナ「わたくしたちは降参いたします。」
「え?」
セリーナ「さすがに、兎ちゃんなしであなたたちを倒すのは難しいですからね。」
「そっか。」
セリーナ「それではわたくしたちはこれで。」
ウラ「じゃあねジーク。すごく勉強になったよ。」
「ああウラも頑張れよ。セリーナも、すげえ強かった。」
セリーナたちは手を振って俺たちから離れていった。
するとピーターが俺に近づいてきた。
ピーター「やるねジーク。ルール上仕方ないけど、あまり僕の出番はなかったかな。」
「そうは言うけど、俺が倒れても、お前は1人でもやり切れたんじゃないか?」
ピーター「まあそうだね。今回はバックアップとして動かせてもらったよ。」
ピーター「でも君は、僕がいるからと言って、甘えてはいなかったと思うけど?」
「そりゃな。さすがにピーターがいたから勝ったなんて言われたくはなかったからな。」
ピーター「やはり君はいいね。君とはまたいずれ、こうして一緒に戦いと思ったよ。」
「なら、卒業したら一緒に冒険に出ようぜ。」
俺がそう言うと、ピーターは困ったように笑った。
ピーター「ありがたい申し出だね。でもそれは断らせてもらうよ。僕にも王子としてやらなければならないことがあるからね。」
「そっか。残念だ。」
ピーターに断られたことは残念だったが、またひとついい経験になった。
もっと強くならないとな!
そうして、一通りの試合が行われると、集団戦闘訓練の最初の授業が終わった。
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