集団戦闘訓練①

 私たちは今、第一訓練場にやってきている。

 その理由は、ついに集団戦闘訓練の授業が始まるからだ。


「全員揃っているな!それではこれより、集団戦闘訓練の授業を始める。」


 マークが現れ授業の指揮をとる。

 この場にはマーク以外にも、レベッカとマーガレット先生をはじめとした主要な先生たちが集まっている。

 それだけこの授業が重要なものなのだろう。


「まずは俺たち講師が実戦形式で集団戦闘について教えようと思う。」


 マークがそう言うと、マークを除いた先生たちが集まった。

 マークは1人、他の先生たちと相対する形だ。


「今回、マーガレット先生たちが冒険者、俺が倒すべき強力な魔物だと仮定する。」

「では、レベッカ、来い!」

「はい!」


 レベッカは元気よく返事をすると、マークに向けて飛び出していった。

 レベッカの飛び出していく速度は速くはない。

 けれどあれは私たちに見えるように加減しているのかもしれない。

 現に、レベッカの表情にはかなりの余裕がある。


 レベッカの鋭い拳が、マークに迫る。

 しかし、マークはいとも簡単にそれを避け、足払いをかける。

 レベッカは慌てた様子ですっころんでしまい、そのすきにマークが持っていたバスタードソードが向けられた。


「ふえええ、ひどいですよぉマークさん!」

「いや、受け身ぐらいしとけって…」


 涙目のレベッカに対し、マークは呆れていた。

 あれ、ホントに加減してたんだよね?

 レベッカのあれは演技?

 わからなくなってきた…


「さて、今見てもらった通り相手が強敵の場合、1対1で戦い、勝利することはかなり難しい。」

「相当の運、相手の油断をつくなどでもない限り、ほぼ不可能と言っていいだろう。」

「だが俺たち冒険者は、どうしたって強敵に立ち向かわなければならない事が多い。」

「ではどうすればいいのか?その解決方法は次の演習をみてくれ。」


 マークがそう言って先生たちに視線を促した。

 先生たちはうなずき、陣形をとった。


 レベッカなどの近接戦闘を得意とする戦士たちは前に出る。

 マーガレット先生などの魔法使いは、戦士たちから3〜10メートルほど離れた位置に陣取った。


 まずレベッカが駆け出す。

 マークはそれを簡単にいなす。

 ここまではさっきまでと同じだ。


 そこから軽戦士の先生がマークの隙をつくように攻撃を続ける。

 マークは先ほどまでの余裕が少しなくなり、辛うじて攻撃を避けた。

 その直後、マーガレット先生が第一階梯の真語ソーサラー魔法:【エネルギー・ボルト】を行使した。

 マークはそれに対し、抵抗することができずにまともに受けてしまった。

 と思ったら、直前で【エネルギー・ボルト】が消失した。

 マーガレット先生が、魔法を中断したのだろう。


「このように、多対一という局面をつくることができれば、相手はその手数に対応しきれなくなり、最終的にはダメージを負う、というわけだ。」

「これでお前たちも、集団で戦うことの必要性を理解してくれたことだろう。」

「ここまでで何か質問のある奴はいるか?」


 マークがそう言って周囲に質問を促す。


 なるほど、確かに理にかなっている。

 だが、この戦い方を受け入れるかどうかはその人間の性分によるような気がする。

 私はどうだろうか?

 大勢で一人を囲んで、ボコる。

 私としてはこれ以上ないほどの面白さを感じる。

 けれど同時に、それは自身の弱さを認める弱者の行いである気がしてならない。

 私は自分の力であいつらに復讐を果たしたいんだ。

 他人にその命運を委ねるなどあってはならない。

 けれどあいつらは全員化け物ぞろいの連中だ、どうしたって不安は残る。


 私は憎むべき奴らのことを考える。


 そこで私は閃いた。

 そうか!利用すればいいんだ!

 やつらは手下を利用して、些事のすべてを行わせていた。

 なら私は他の人間を利用してやつらを弱らせてやればいい。

 そうして弱ったやつらを最後に私の手で殺してやればいいんだ。


 これから先の方針が決まった。

 この集団戦闘の基本をマスターして、手駒を増やす。

 これからの学生生活は、私の能力を引き続き伸ばしつつ、有用そうな手駒を探すことにしよう。


 わたしがそう思案していると一人の学生が声を挙げた。

 向こう見ずなグラスランナーの少年レザーだ。


「俺はこの戦い方に納得できない。」

「真剣勝負に集団で囲って倒すなど、卑怯な行為以外のなにものでもない。」


 レザーの質問にマークは真剣に答えた。


「そうだなレザー。確かに、お前の言う通り、多対一は決してまっとうな戦いとは言えないだろう。」

「だがな、それは決闘というプライドをかけた勝負に限った話だ。」

「俺たち冒険者は、生き死にをかけたリアルの中で生きている。」

「俺たちは生き残るためにそうやって戦うし、知能ある魔物もまた同じようにしてくるだろう。」

「できれば学生のうちにそう言った体験をさせてやりたいところだが、さすがに生死がかかった戦いを俺たちからさせるわけにもいかんのでな。」

「こうして口で教えることしかできないのが歯がゆいが、今はこらえて訓練に臨んでくれると助かる。」


 マークは申し訳なさそうに答える。


「…わかった。」


 レザーは納得できていないようではあったけれど、反論はしなかったようだ。

 それから授業の内容は、集団戦闘中の細かい動きに移る。

 前衛と後衛に別れる基本の動き、どれくらいの間合いで陣形を組むのか、乱戦を抜け出すための方法など多くのことを教わった。

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